57 / 74
第57話 スサ
「宮司の稔彦さんって凄くモテるのよ。」
神社の境内を掃除していた白衣(びゃくえ)に緋袴(ひばかま)の巫女に言われた。境内には他にも、元気に走り回ってる子供達がいた。みんなスサの子供なのか?
昨夜、スサの家に泊まって、抱き潰されたことは、何故かここの人達に知られている気がする。
「なんか、もう帰りたい。」
厩に来た。ぶるっ,ぶるっ、馬の声がする。
「馬さん、僕はなんか、悲しい。」
馬の鼻面を撫でて話しかけた。
「馬さんの名前も知らないままだ。」
凄く寂しくなった。お尻も痛いし、情けない。
「僕は一人ぼっちだよ。」
スサが走って来た。ミトを抱きしめて
「妻がいる事で、そんなに傷つくと思わなかった。ごめんよ、許しておくれ。
今、俺が一番怖いのは、ミトに去られる事だ。
俺を嫌いにならないでくれ。」
スサがそんな事を言うなんて意外だった。
「結婚してるの、知らなかった。女の人の方が似合うね。僕は道化だ。こんなに遠くに来てしまった。」
「ミトにはここは地の果てに思えるんだね。
俺が全部悪い。
どうしたら、許してくれる?
何もかもどうでもいいんだ。ミトだけが欲しい。」
「何言ってるの?意味わかんない。
奥さんも子供もいるのに、浮気しちゃダメだよ。」
スサが何を考えているのか、ミトにはわからない。家族ってものが、よくわからなかった。
「でもなぜ結婚するのか?
最後にスサ、馬さんの名前を教えて。」
「馬は、アオ、だよ。
最後なんて言わないで。
もう一度、部屋に入って。」
肩を抱かれたのに、なぜか拒否してしまった。身体が嫌がっている。
「ここは不思議なところだね。
子供達はみんなスサのお子さん?」
涙が出て来た。泣くのは違う、と思っても涙が止まらなくなった。
(ロジ。助けて。ロジなら、全部解決してくれる。)
ともだちにシェアしよう!