58 / 74

第58話 結界ではない

 ミトはずっとアオの鼻面を撫でている。 背が高い馬は、頭を下げて撫でさせてくれる。 そばでスサが一人で喋っている。 「アオは誰にも懐かなかった。俺だけが乗りこなしたんだ。  ミトは不思議だな、俺の心も手に入れた。 誰にも懐かなかったんだ、俺も。  ここで生まれてここで育って、 来るものは拒まず。何の疑問も抱かず。  与えられるモノだけで満足していた。 周りの人間が気を使っていろんな人を連れて来た。友達をあてがってくれた、っていう感じだ。  俺が飽きないように。俺はこの結界の中で完結していたんだ。」  スサは特殊な環境で育てられたのかもしれない。この神社の境内が、スサの世界の全てだった。  先代の宮司が教育を授けた。知識の全てを授けてくれた。博学な人だったから、一般教養だけでなく、古典や漢文にも力を入れた。  スサは少し古臭い教育と、神道の奔放さを叩き込まれた。自由に山を駆け巡る。  アオが友達だった。アオの行ける所なら何処にだっていく。禁忌など無い。  聖域であるこの山も、スサには自由にさせてくれたらしい。  そして15才になると女人をあてがわれる。 数人の見目好い巫女が候補になる。性行為を、したり、しなかったり。最初に懐妊した女性が妻となった。  神社には雑用をこなす若衆がいた。その中でも気に入った男と性行為をした。誰も咎めない。  男も女も自由に抱いた。 時々、多分一年に一度、爺様たちが集まって来る。神事の儀式のためだ。その合間によその土地の様々な出来事を話してくれる。  インターネットが使えるようになって、スサの情報量は、膨大なものになった。 「いろんな人が来るし、閉じ込められているってわけではなかったと思う。  大人になると、何故?という疑問が時々頭をよぎったけど、爺様たちが来ると何でも答えてくれたし、望めば東京に行く事も出来た。  それでミトに会えたんだよ。」 監禁とか、軟禁とか、とは違うようだ。

ともだちにシェアしよう!