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第59話 出自

「ただ、俺はどこで生まれたのか、誰の子なのか、肝心な事がよくわからない。  母親は、いる。いつも、厨で飯を作っている。 小さい頃は、そばにいて、優しく抱きしめてくれた。撫でてくれたし寂しくなんかなかった。」  同情されるような育ち方では無い、という。 神社だから。神社ってこう言うものだ、と思っていたという。  確かに閉鎖的ではあるが、悲惨な訳ではない。 ずっと押し黙っていたミトが口を開いた。 「スサは他人がどう思うか、なんて考えた事ないんだね。  大切なものを失った事がないんだ。 僕の悲しみは理解できないんだね。」 「理解するように努力しよう。 だから、ミト、俺を見捨てないで。」 「一人ぼっちみたいに言わないで。 スサには嫉妬してくれる奥さんがいるじゃない。  子供の事は愛してる?執着はないの?」 「無いよ。子供は可愛いけど、よその人と同じだ。ミトを思う気持ちは、俺には新鮮だ。  初めてなんだ。これが好きっていう感情だね。」 「なんかスサの印象が変わって来た。 人ってわからないものだね。  なんで僕はスサに惹かれたんだろう。 心のままに来てしまった。」 「家の中に入らないか? もう、俺といるのは、嫌なのかい?」  不安そうにミトを見るスサに、何故か胸がキュンとした。ミトはやっぱりスサが好きだ、と思う。  手を繋いで家に入った。 アオが笑ってるように見えた。 (馬って笑うの?)  やっぱりまた、膝に抱かれる。 もう腰もお尻も痛くはない。首に抱きついて 「緑子さんもスサを愛しているんだ。 僕は来なければ良かったのかな?」 「わからない。俺と緑子が、同じだけ愛すれば良かったのか?同じ分量の愛があれば。 でも、俺は緑子に何も感じないんだ。」 「ふうん、スサはひどい! でも、僕、スサが好き。」  熱い口づけを交わした。

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