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第60話 これから

 奥の老人が来ている。10月でもないのに、一人で来たのか?  離れのスサの部屋に来た。 「ミト、どうじゃ、慣れたかのぅ。 まだ、帰らんか?」  東京では3年が過ぎた、と言う。 「え、嘘でしょ?まさに浦島太郎?」 「ここは下とは時間の流れが違うのじゃ。 密度というかのぅ。空間が、ある条件の元に歪み始める事は知っておるか?  物理学者が、理論上はその存在を認めておる。 これはロジャーに聞いた方がいいな。専門家だ。」 「それで、時の流れが、向こうとこちらで違うんですね。」  スサにはわかるのか。変に納得している。 「おじいちゃんは何でもわかるの? 僕はスサが好き。ロジャーも好き。 どうしたらいいの?」 「時の流れは連なっておる。 悠久の時の流れに、様々な出来事が刻まれておるのだから、その中には少し変わった出来事で模様を付けても面白い。恋は一つの模様じゃな。」 「なんかすぐ終わるバグみたいな言い方だね。」 「悠久だからのぅ。すぐ終わる、の、すぐ、がどれくらいか?なんて誰が計るんじゃ?」  わかったような、わからないような。 以前ロジャーから物理学のレクチャーを受けた時のミトの感想だった。 「曖昧って便利な言葉だね。 スサと一緒にロジャーの所に帰りたい。」 「スサがここを去るなら、ちょいと儀式を済ませないといかんのじゃ。」 神職を他の人に引き継がなければならないらしい。 「幸い、スサには子供がいる。 12才になる息子がおったのぅ。」 「はい、摩利彦ですね。 摩利彦なら留守を任せられる。」 「それでは、血脈の譲渡、特別受益の儀、を執り行う。奥座敷にみんな集めておくれ。」 「え、今から?」 「早い方がええじゃろう。」

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