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第61話 一子相伝
爺様は結構せっかちだ。簡単な宮形を作った。
本妻の緑子が息子の摩利彦を連れて来た。その後ろから、男の子や女の子を連れた女性たちが続く。全員スサの子供らしい。
世話人は神社を仕切る若衆たちが務める。
神職の装束に着替えた爺様とスサが現れた。
(スサ、カッコいいなあ。似合う。神主なんだ。)
爺様が正座したスサの上に幣(ぬさ)を振り回して、祓詞を奏上する。
その場にいる係累のためのものは祓詞(はらいことば)を奉ずる。そして神に捧げるのは祝詞(のりと)である。
かなり短縮したのではないかと思われる短い儀式で、親から息子に引き継がれたらしい。
ミトは全く知らない世界で、興味深く見ていた。
「これでスサは神職を離れた。
摩利彦は、日々禊(みそぎ)をして、お山を護るように。」
突然、重責を任された事に気付いているのか、それでも摩利彦は凛として受けていた。強く引き結んだ意思のある横顔は、スサに似ていた。
「お父さん、オレがお山を護るから、安心して旅に出てください。」
スサは、摩利彦を固く抱きしめた。
どうやら、旅に出る、という事になっているようだ。
ミトにも頭を下げて、摩利彦は母親の緑子と共に部屋を出て行った。
「帰り支度をして。途中までアオに乗って行こう。アオは自分で帰れるから。」
アオの背中は温かかった。山の中腹の洞窟の前で止まった。
「伯父様も後から来るだろう。ここを歩いて抜ける。大丈夫かい?」
手を繋いでくれた。向こうに明るい光が見える。そこへ向かって歩いて行った。
どれくらい歩いただろう。一瞬のようでもあり、ずいぶん長い道のりだったようでもあり、、
屋内に通じるドアを通った。開けるとそこはあの倶楽部のVIPルームに通じていた。
「え?新幹線とか、電車とか、乗らないのに帰って来た?」
「ははは、ショートカットだよ。
伯父様たちはいつもここから行ったり来たりしてる。」
「信じられない!」
「お山のことはすぐに忘れちゃうよ。」
ロジャーがいてハグしてくれた。
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