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第69話 奥とは?

奥のご老人に煙に巻かれて有耶無耶にされた出来事は、驚くほど、速やかに、人々の記憶から薄れて行く。  時間軸が狂う奥の世界。神職だけに伝えられている事があるのだろう。  スサはあの倶楽部で黒服として働いている。 時々、客と一夜限りの恋をする。もちろん、商売ではない。絶倫なスサのスポーツのようなものだ。  基本、バイである。噂を聞いて女性客もやって来る。誰でもいい訳ではないので、スサ目当ての会員も、フラれてしまうことはある。男娼ではない。  スサは呼び名を「ナルヒコ」にしてもらった。本名がいい。須佐は名字だ。共有している家族もいる。神社の名前でもある。 「スサ!」 ミトとロジャーが来た。 「俺、スサと名乗るの止めたんだ。 下の名前、ナルヒコって呼んでくれ。」  ミトにハグしながら言った。ロジャーが 「須佐之男命は代々伝わる神社の名前でもあるんだね。」 「ええ、厳密には、須佐、ですから。」 「ああ、須佐神社だったね。出雲のあそこ。」 「ナルヒコ、呼び方慣れないなぁ。」 「カッコいいだろ。」 そう言ってキスしてくれた。  ミトが走って奥のVIP席へ行った。 ガラスのドアを開けてその奥へ行く。後ろからロジもついて来た。  今日は、誰もVIP席を使っていないから、どんどん奥に行って壁にぶつかった。 「ドン、ドン。 ダメだ。壁だ。ロジ、来て。」 「ああ、行き止まりだね。」 「何か、隠し扉があるんだよ、きっと。」 後からナルヒコが来て 「ははは、ここは昔から壁だって聞いたよ。 ミトは何か勘違いしてるのか?」 「壁の向こうは何があるの?」 「もう、建物はここまでだよ。向こうは隣の神社の社殿の裏側だ。  生垣でこちらの地所と隔てられている。間に大きな木も植えられてるよ。  欅だったかな。樹齢も相当だと思う。」 昨日今日植えたものではないらしい。

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