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第70話 奥とは?②
ミトは外に出て敷地の奥に行く。地所が生垣で
遮られて向こうには入れない。
ぐるりと周って庭を抜け、駐車場を超えて反対側に建つ神社の境内に入って行った。
ロジャーの手をしっかり握っている。一人では心細い。神社は大きな木に囲まれて鬱蒼としている。鳥居をくぐり、狛犬の間を進んで行った。
神社の名前が書かれた看板みたいなものが社殿に掛かっている。古ぼけて煤けて読み取りにくいが確かに「須佐神社」と書かれている。
「あ、ここも須佐神社だ!」
出雲のナルヒコの家が須佐神社だった。
「倶楽部のVIP席の奥と繋がってはいないね。
それにしてもなんて古い神社なんだ。
拝殿も、誰も来なくなってから随分経つようだ。緑青が吹いて開かなくなっているようだ。」
「おじいちゃん達が住んでるようには見えないね。おじいちゃん達はいつも何処から出て来るんだろう?」
ロジがミトの頭を撫でて、
「せっかくだから、お参りして行こうか。」
お賽銭を投げた。500円硬貨を2枚。
二回礼をして、二回柏手を打った。また礼をして帰って来た。
倶楽部の分厚い二重ドアを開けて、ナルヒコに迎えられた。
「お帰りなさい。奥はどうでしたか?」
「知ってたんでしょ。
ナルヒコはあの神社が家なの?
あそこに住んでるの?」
「そんなばかな。ミトは俺があの寂れた廃屋みたいな神社に住んでると、本気で思ったの?」
「だって須佐神社だったよ。」
「ははは、
ご老人のお住まいを、俺は知らないんだよ。
俺はこの近所のマンションを与えられた。
結構綺麗な部屋だよ。」
(きっとロジャーは嫌がるなぁ。
僕が入り浸りになりそうで。)
「僕に教えてくれなくていいよ。」
「安心して。俺、恋人が出来たんだ。」
「えっ?手が早いなぁ。」
「みんな、放って置いてくれないのさ。」
ナルヒコの新しい恋人は、男、だった。
ミトは、
(これ以上、子供が出来なくてよかった。
もう、寂しい子供を増やさないで。)
寂しいかどうかわからないのに、そんな事を思った。
不思議な経験も、謎多い倶楽部も、時間と共に記憶は薄れていく。
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