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第72話 裏も表も
全てが「自己責任」だという嘘くさい自由。
上手く仲間を作れず、集団の中で孤立する人間には、もはや宗教くらいしか居場所が無い?
自由という名の不自由。居場所?役割り?
結局、密室に閉じ込められてるのと変わらない出口のない日常というストレス。
「そんな奴らのごく一部でも、拾ってやりたい、と思ってヤクザをやっている。
怪しい宗教にハマるよりマシだろ。」
佐倉組長は、損な役回りを敢えて引き受ける。その男気に、命をかけて盃を受ける組員も多い。
シノギの厳しくなった世の中でも、経済ヤクザはいけるんじゃねえか?と今はそちらに力を入れている。
佐倉組長の秘蔵っ子、キム・イルス。
今、懲役に行っているが、組長は出所を心待ちにしている。頭の切れる男だ。
兄弟のキム・ガンスは武闘派で頭角を現してきた。突撃隊長だ。イルスとガンスは組長預かりのアオを特に可愛がっていた。
止むに止まれぬ思いからチャカをぶっ放して懲役に行くなんてのは、ガンスの方だと誰もが思った。今では語り草だ。
冷静な男が殺ったのは、チャイマのガキだった。前後の事情はわかりにくい。
楊(ヤン)というチンピラ。チャイマとしては裏切り者のアオ、を撃った男。
俺が殺りたかった、とガンスは悔しがったという。
バー高任のマスターに惚れたアオこと、呉碧雲を撃ったチャイマのガキを、有無を言わさずいきなり殺したイルス。アオの仇を打ちたかったと言っている。
誰もが悲しみを背負っている。アオはスグルの腕の中で短い人生を終えた。
「バー高任」
今夜は藤尾さんが来ている。もちろん名都も一緒だ。
「奥のご老人の所に新しい黒服が入ったんだってな。」
「相変わらず地獄耳ですね。
ロジャー先生の所のミトちゃんが出雲から連れて来たって。
3年も向こうに行ってたらしいから。」
藤尾は奥の老人の仕事をしている。大体の事情は聞かされていた。
「出雲は時間の流れが違うからな。」
「ええ、ミトちゃんがそんな事言ってましたね。」
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