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十六夜 p9

 通用口を抜けて表に出ると、数歩先にタカハシがいた。  木陰を見つけてその下で待っていたようだけれど、案の定、汗だくだ。ぼくを見るなり、緩やかに顔を綻ばせる。ぼくの中で張り詰めていたものが一気に溶けた。  きっと涙の跡が見えるのだろう。傍に寄ると、もうすっかり乾いているはずの頬をタカハシの指先がそっと撫でる。 「会えたよ」 「うん」 「元気そうだった」 「そうか」 「会って、よかった」 「うん」  慈愛に満ちたまなざしに、頭の裏側がじんとぬくもった。  この人に出会えてよかった。心からそう思ったから、汗に濡れたシャツに腕を回し、汗の流れる首元に頬を埋めてこすった。彼の匂いが鼻腔を充たし、胸を熱くさせる。 「今日はありがとう、宗太」  そう囁くと、なにかの枷が外れたかのように強くかき抱かれた。突然のことにぼくは驚くほどだった。  唇を掬われるような激しいキスをされた。  久しぶりのキスだった。  彼もまたずっと欲してくれていたのかもしれない。  そう感じられるような、深く、長く、呼吸も魂すらも交換し合うような、果てないキスだった。 (了)

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