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腕いっぱいの花束に、胸いっぱいの恋歌を p23
「そ、宗太を、どうしようと思って、口説いたんですか」
ショックのあまり普段は使わない敬語になる。
「そりゃー抱こうと思ってだよ、もちろん。でも残念。完全タチ相手じゃダメなんだわ、俺」
つまり三上さんも完全タチなんですね…と、ぼくは必死に理解した。
確かに三上さんのほうが宗太よりも爪の先くらいは背が高いかもしれない・そのうえドラムスで激しく動くからかなりゴツい体格をしている。
けれど宗太だって180越えの長身だし、均整の取れた逞しい骨格をしている。
ぼくは二人が並んだところを想像した。
どうもぼくの乏しい想像力では、ウルトラマン同士がイチャイチャする図しか思い浮かばない。ああ、まあ、それはそれで萌えかもしれない、などと気持ちを寄せてみる。
「じ…じゃあ、宗太をネコにと思って、口説いたんですか」
そうなのよねぇー、と、わざとらしいオネエ言葉で三上さんが眉尻をさげる。
「俺、手ごわい奴ほど組み伏せたい本能でもあるのかしらん。でも、あいつを好きになった最初の理由はさ、そういうことじゃなくて。高橋の、なんともいえないあの穏やかな気性に惹かれたから、なんだけどな。頭いいのに、できるところを鼻にかけたりもしないだろ」
優しい声になる。
ぼくはすっかりまいってしまった。
なんてぼくにはライバルが多いんだろう…と。まさか三上さんも宗太を狙っていたなんて。まったく油断も隙もあったものじゃない。
もっとも、ぼくと出会ったときの宗太はすでに光の君と呼ぶにふさわしい遊び人だったから、大学でだって似たような状態であっても不思議じゃない。
やっぱり宗太はぼくには過ぎた相手なんだよなあ…と、今に始まったことじゃないけど思い知らされたぼくは、打ちひしがれた。
「三上さんの告白に、宗太はどんな顔してた…?」
「あれだけのイケメンだからな。遊び慣れた断わり方をされるんだろうと覚悟してたんだけどさ。意外なほどストレートに断ってきた。その時にお前の存在を聞いたんだ」
「お前の存在」という言葉は、思いがけなく特別な響きとなってぼくの心に染みた。
「ぼくの存在…?」
「ああ。すごく大事に想ってる恋人がいて、一緒に暮らしているんだって。自分の命より大事な存在で、手放す気はないんだってさ…。あんなに真剣な高橋の顔を見たのは、あれきりだな」
まるでぼくの反応を見て面白がっているみたいに、ぼくを観察しながらひとことひとこと区切りながら告げて、にやりと笑う。ぼくはまんまと不意打ちをくらい、それから火が噴いたみたいに顔が熱くなった。
(命より、大事——)
感情の全てがぶわっと爆発しそうになる。
…まずい。
これは、まずいぞ。
こんなパワーワードを聞かされたら、顔が。表情筋が、ぐにゃっとつぶれて、へにゃって顔が崩れて。
目までが、潤んできちゃって。
そうやってぼくは、ぼくのこのすました外ヅラの鎧のようなものをこんなふうにはがされてしまえば、宗太への切ない思いで泣き崩れてしまいそうになる。
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