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腕いっぱいの花束に、胸いっぱいの恋歌を p40

「ああ。会いたいな…」  吐息まじりの声に、体の芯がずくんと疼いた。 「ぼくも」 「まだ一晩も経ってないのにな」  宗太が笑う。  なんだか弱々しい声で、元気に発されるよりもぼくは喜んだ。それだけ宗太がさみしがってるってことだから、ぼくは満足したのだ。 「うん」  ぼくも会いたくてたまらないよ。  それほどにぼくたちは、それほどにお互いを求め合い、一緒にいて、慈しみ、愛し合ってきたのだから。 「今、なにしてた?」  宗太が訊く。 「シャワーを浴びたとこだよ」  さすがに、宗太のベッドで寝転がって、ペニスに手をかけてました、とは言えない。 「そうか」  短い沈黙があった。それからしみじみといったふうに宗太が続ける。 「佳樹の湯あがり、すごく好きなんだよな。全身の肌が赤みがかっててさ。ちょっと汗ばんでて、しっとりと色っぽくて」 「――やだ」 「何が」 「今の、いやらしく聞こえた」 「狙ったもん」  いたずらっぽく返答する。 「抱きたいな。ヤバい、一晩でこれじゃ、もたねーよ」  でも、これまでも合宿やらバイトやらで、離れ離れの夜を過ごしたことはいくらだってある。 (でも今回は、先が見えないから――――)  なぜ、これほどまでに寂しく感じるのか、それは入らざるを得なかったこのトンネルの出口が、どこにあるのか分からないからだ。いつまで、こんな夜を過ごさなくてはならないのだろう。唯輔の症状が治まるのは、いつ?  もしからしたら、途方もなく、先は長いのかもしれない――――。その不安を、不満を、口にしてはならない。それは気の毒な唯輔を呪うことになるから。 「今夜は、おまえを想像してヌくよ」 「や、だ、」  ぼくはほんとに泣きそうになった。 「なんでだよ」  寂しく笑う顔が、目に見えるようだった。そんな宗太がかわいくて、愛しくて、抱きしめたくてたまらなくなる。 「ヤだよ。本物のぼくでイってよ」  あんたの腕に抱いてほしい、今すぐ。  あんたのもので貫いてほしい、今すぐ。 「でも、できないだろ。――そうだ。佳樹、もう少し電話に付き合ってくれる?」  なんで、あえてそんなことを訊くのだろう。よく分からなかったけれど、ぼくはとりあえず「いいよ」と答えた。 「ちょっと待って。場所変える」  ごそごそと動く気配があって、少し経ってから宗太の声が続いた。 「おっけ。バスルームに鍵かけた。今のおまえ想像したら、勃っちまったから」  頬にかっと熱があがった。 「ほんと…? 嬉しい」 「うん。きつくなった。待って、出す。ほら、もうこんなにでかくなってる」 「やだ、もう。やらしいよ…」  背中にゾクっと電流が走った。卑猥を帯びた言葉に刺激され、ぼくのものもたやすく勃起する。手を伸ばしてチャックを外し、取り出した。 「ぼくも、すごく大きくなってるよ…。実はね、さっき一人でしかかってた」 「何を?」 「オナニー」  ちょっとだけ驚いた感じの沈黙がよぎる。 「そうなんだ」 「うん」 「誰を、想像してやってた?」  からかいがちに問う。  分かっているくせに、わざと答えさせる。こんな時の宗太はちょっとサディスティックだ。きっとニヤリとしているに違いない。そんな意地悪な王子様に、ぼくはあっさりと負けてしまう。 「あんただよ。もちろん」 「だろうな。嬉しい」  宗太はぼくへの愛情をこんなに自信満々に表現できる王子様なのだ。 「今、どこ触ってる?」  なんでもお見通しの王子様は、そんないやらしいことも訊く。 「根元」 「どれくらい太くなってる? どれくらい、固い? すぐイキそう?」 「ヤだ。そんな意地悪なことばっか訊いて、あんた、ヤだ」  ぼくの抵抗の声も、またとろとろと甘い欲望に彩られていく。宗太からの淫蕩な言葉に触発されて、ぼくの腰は焙られたように熱く疼いた。 「キスしよう、佳樹」 「ぼくだってしたいよ」 切なくて涙ぐんだみそうになる。 「なら、しよう」 「今?」 「うん。想像して。毎日、何回もしてるんだからさ。できるよ」  ならばと、少し大きめな男らしい宗太の唇を想像してみた。柔らかなのに、しっかりとした存在感のある、ベルベッドのような感触なんだ。  重ね、啄みあい、吸いあい、深く交わせあって。やがて舌先をたわむれあって、音をたてて絡めてゆく。  その過程の一つ一つを記憶でたどった。  ぼくの手はゆっくりとペニスをしごきあげて、じわりと先走りが沁み出す。  宗太の舌なめずりの音がした。ぼくもねっとりと唇を舐めた。 「耳だろ……首筋……顎。佳樹の弱いトコ、ぜんぶ、キスしながら降りてる」  追憶する。まるで今、そうされているかのように感じることができる。そうできるほど、ぼくはたっぷりと彼に愛されてきたのだ。 「乳首のとこまで来た。乳輪、こねるみたいに撫でてる。やってみて」  ぼくはその通りにした。快感に、背筋が痙攣をおこす。指で摘まんでと命じられ、ぼくはそうした。 「ぎゅっとつぶすと()くよな?」  親指と人差し指で、尖りをつぶす。 「ふぁ…っ」  快感のほとばしりが背中を貫き、先走りがあふれた。 「ペニス、いつも俺がやってるみたいにできる? あまり痛くしすぎないで、でも、気持ちよく…」  従順にそれをおこなったぼくは、焦がれるような快楽にさいなまれ、首をのけぞらせて脚を踏んばった。浮かした腰がさらに淫蕩に揺れた。

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