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腕いっぱいの花束に、胸いっぱいの恋歌を p41
「ん、んは…、」
「エロい声――――」
宗太の声にも余裕がなくなってきている。
「ぼくも、宗太の乳首、舐めていい…?」
「うん。して」
腹這いに体勢を変え、宗太の上に乗るシーンを想像する。固くしこった実を舌先で転がし、まさぐるところを思い浮かべれば、宗太への愛しさが泉のように胸に満ちてゆく。
腰を動かすとシーツにペニスが擦れる。ぼくの獣性が刻一刻と呼び覚まされ、喘ぐ吐息がとまらなくなった。
「ふ、――、」
「気持ちいいよ、佳樹。巧い」
いつもだったら、ここで優しく髪をかきあげてもらえるのに。飼い主からの愛撫を貰えない寂しさがじわりと臓腑の底に広がって、ぼくを冷たくする。そんな物悲しさに、懸命に抗った。
「宗太、ペニス、触ってる…?」
普段ならあたるはずの固い感触が恋しかった。
「ああ、すごく濡れてる。ヤバいくらい、べとべと」
「やだ、もう。そんなことばかり言わないでよ、やらしい…」
「でもおまえだって、一緒にコいてんだろ?」
「や…!」
一緒にコく、だなんて。そんな卑猥な言葉を聞かされたらひとたまりもない。もうそれだけでイキかけた。ぼくは、こらえるために手を止め、唇を噛まなくてはならなかった。
「佳樹は? 濡れてる?」
「うん…」
「どれくらい?」
「もう、そんなに訊かないで…」
耳を犯されているみたいだ。
「教えて?」
もぞもぞしていると、せかされてしまった。
「…とろとろしてる。白いの、いっぱい混じってるし。布団、すごく汚した。明日、洗わなきゃ」
「ふふ。感じやすい恋人で嬉しい」
恋人。
胸がきゅんと音をたてる。
そうだ。
宗太と出会ってから、ぼくの胸の中にはこう鳴く鳥が棲みついた。宗太の愛の言葉を聞かされるたびに、こうやって切なくさえずるんだ。
「宗太、ぼくのこと気持ちよくして」
「竿、扱く? それとも、先っぽからゆっくり責めてく?」
「もう…! ほんとにすけべだよ、あんた」
「まあな」
クスクスと笑う。
夜中の悪だくみ。
唯輔に、悪いだろうか?
苦しんでいる唯輔をよそに、ぼくたちは隠れてこんなことしてる。そのことに少しだけ罪悪感をいだいた。
(でも、ぼくたちだって我慢してるよ)
もう一人のぼくが非難の声をあげる。
これくらいなら、いいよ。
きっと許される。
意識的か無意識的かは分からないけれど、きっと宗太だってそう感じたからこそ、こうして誘ってくれたんだ。
仰向けになったぼくのペニスが宙へと突き出されて、小刻みに震える。先端をしたたかにくじると、神経を灼く衝撃が脳天へと抜けた。
「んっ」
つらくても手加減しない。だって、いつもならそんなことはおかまいなしに宗太は責めたててくるのだから。そうしてぼくは絶頂に絶頂を重ねながら、快楽を極めるのだから。
熾烈な刺激にぼくはベッドの上でのたうった。
「ああ…っ、んは…っ」
「キテるんだろ?」
「そ…たも、してる?」
「ああ、してる。いつも、おまえをイかせるときも、自分でやってるから」
「そんな…!」
そんな切ないこと言わないで。
「傘に塗りたくれよ。気持ちがいいだろ?」
次々とあふれてくる先走りを塗りたくりつつ、カリの縊れをなぶった。理性などどこかへふっとんでいた。
声にならない悲鳴をあげて、ただただ、腰を打ちふるって。
「イ…イク。も、だめ――イって、いい?」
「ああ。一緒に」
淫らな吐息が受話器越しに混ざり合う。宗太もこうやってすごい音をたてて扱いているのだろうか――――。
「ぼく、もう…、イク、――イク…、よ…!」
切羽詰まった声が部屋に響く。手と下腹部を濡らしながらぼくは果てた。
「宗太は? 宗太は? 一緒にイケた?」
朦朧として、気の利いた言葉一つ出てこない。
「大丈夫。一緒にした」
宗太も息があがっていた。受話器越しでも同じ快楽を共にできたのだ。
「刺激的だな、こういうのも」
「物足りないよ。直に、あんたに抱かれたいよ」
「そりゃ、俺だって」
欲しい。
本物が欲しい。
宗太が欲しい。
行為後のまどろみのなかで、互いの呼吸をスマホ越しに感じていた。呼気の一つ一つに、「愛おしい」と伝えたい想いが宿っていた。
「ね。ぼく、このまま寝るからキスしてて。うんと濃厚なやつ」
できるはずのないことをねだってみる。宗太はおおらかに請け負ってくれた。
「おまえが寝付くまでしててやるよ。だから安心して寝ろ」
「絶対だよ」
甘えるような返事をして、宗太の舌の感触を思い浮かべた。
目を閉じて、すぐ横に宗太がいてくれていると想像する。現実にはそうではないという哀しさは思考の隅へと追いやった。
今は宗太と繋がっている、貴重で幸せな二人だけの時間だ。寂しさにだって邪魔はさせない。宗太は、ぼくが寝入るまで通話を切らないでいてくれていた。ぼくは、ほんの少しの涙を流しながら眠りについた。
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