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第7話 人ならざるものたち

 信じたくない。信じられようはずもない。あまりにめちゃくちゃで、途方もなくて、誰がそんな話をすぐに飲み込めるだろう。  けれど、ミソラはどう見ても人ではなくて、人ではないものが現に、蘇芳の目の前にいる。  蘇芳はミソラに触れられるし、ミソラもまた然りだ。ここで自分に出される食事も、見たことがないような食材ばかりだったが、ちゃんと実体があり、食べられるし腹も膨れる。  ミソラが食事をするところは見たことがない。これは話を聞いてもよく理解できなかったところでもあるのだけれど、人がするように食事から力を補うのではないという。  山の神だと蘇芳が思っていたのと、ミソラの話は近いようで遠かった。 「あやかし……」  そう、村の大人たちは呼んでいた気がする。  人でなく獣とも異なり、神とも言われる存在。人のすぐ近くにいるけれど、守ってくれることも、罰を与えることも、害をなすこともある。  ミソラが語ったことが本当なら、蘇芳はミソラと同じ、あやかしの血を引いている。自分の見たことのない曽祖母よりさらにその先にいた、先祖の誰かと、あやかしが契りを結んだ、その忘れ胤。  ミソラの話を裏付けるように、両親も、祖母も、そんな話をしたことはただの一度もなかった。きっと、あやかしと契りを交わした先祖は、ひっそりと産み落とした子のことを誰にも話さなかったのに違いない。  薄まりながらひっそりと受け継がれ、ずっと息を潜めていたはずのその血が、蘇芳の体で初めて、目覚めた。  ——俺にその〝力〟が現れたことで、村に、家族に、捨てられた……。 「そんな……」  ミソラはこの辺りのあやかしを束ねる地位にいるという。身分が高いに違いないと蘇芳が感じたのは、間違いではなかったことになる。  ミソラの力の及ぶ範囲は蘇芳の想像もつかないほどに広大で、蘇芳の村もそこに含まれた。蘇芳の力が発現したことにミソラはすぐ気づき、一部始終を見守っていた。  人の世界に干渉することは滅多にないとミソラは言った。  ミソラをはじめとするあやかしの役目は自然を司り、保つこと。人も、獣も、虫も花も、彼らの前には全て等しく、それらが均衡を保っている限り、介入はなされない。  姿かたちは人によく似ていても、その語り口には、人を遥かに超越した存在が感じられた。人が感じる情のようなものはミソラには存在しないことを、蘇芳はおぼろに感じとっていた。  だから、祠のそばに人の子が置き去りにされ、放っておけばいずれ土に還るとしても、ミソラにとっては木から葉が落ちて土に還るのと同じことなのだ。そこにミソラを動かすものはない。  ただ、蘇芳はただの人の子ではなかった。ミソラと同じあやかしの血が、何分の一かに薄まってはいるけれど、その身のうちに流れている。  ミソラが人の世界に干渉し、蘇芳を連れ帰ったのは、蘇芳がその目にただの木の葉と同じには映らなかった、ひとえにそれが理由だった。  全てが他人事のようで、この先どうするのか、自分は何を望むのか、うまく考えられない。  上の空で毎日の雑事をこなす蘇芳に、ミソラは何も言わなかった。戸惑っているのでも、心配をしているようにも見えない。それが一層、ミソラという存在の人ならざる側面を際立たせるようで、蘇芳は心が乱れるのを止められなかった。

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