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第13話 何もできない、何にもなれない

 言われたことだけやっていれば、ミソラは特に何も言わない。  一度、何かできることはありませんか、とミソラに聞いてみたこともあった。だがミソラに時間を持て余して退屈しているのだと思われてしまったようで、遊び相手にと若いあやかしを付けられそうになり、慌てて撤回した。  力をちゃんと使えるようになりたい、と教えを乞うてもみた。あの時は暴走させてしまった力を、自分のものとして、使えるようになるなら何かできることがあるかもしれないと思った。  だが、ミソラに言われた通りに心を集中させ、力が働く様を思い浮かべても、せいぜいが自分の見た目を少し変えること、手を触れた小さな木の葉や枝などを見せたいものに見せかけることくらいしかできなかった。  あやかしたちのように違う種の生き物に見た目を変えることはおろか、若いあやかしの最初の訓練である、手を触れずに離れたところにありもしないものを見せる幻術でさえ、どう頑張っても一度も成功しなかった。  ——あの時は、確かに本物みたいな火の玉と鬼の幻影を見せることができたのに……むしろ、この程度しかできないなら、最初から村を追われることもなかった……! 「……並々ならぬ恐怖や怒りが急激に膨れ上がり、追い詰められたことでお前の中の血を目覚めさせた。その衝撃でそれほどの力の暴走が引き起こされたのだろうね」  ひどく塞ぎ込んでしまった蘇芳に、ミソラはそう言った。 「俺は、役立たず、だな……」  少し休みなさい、と声をかけたミソラが去った後、蘇芳は庭に面した縁側に一人座り込んで誰にともなくつぶやいた。  大事にされている、とは感じている。何もできない自分に肩を落とす蘇芳を、ミソラは気に病むなと優しく労ってくれた。自分の身の回りのことをしてくれ、話し相手になってくれるだけで十分だよ、と。  蘇芳自身、ミソラに守ってもらっていなかったら、今この瞬間も生きていることさえ危ういだろうとよく分かっているし、それには感謝している。だから、これ以上を望むなんて、自分には分不相応なのかもしれなかった。  人の命を左右することなど朝飯前であるあやかしたちの頂点に立つ、ミソラ。直接力を振るうところは見たことがないけれど、森にいるあやかしたちの比ではないのだろう。  そんな彼が何の気まぐれか蘇芳のことを気にかけてくれて守ってくれているけれど、もしミソラの気が変わったら。可能性はいくらでもある。  例えば、もし明日から他のあやかしたちに混ざって彼らと行動を共にしろ、と言われたら。  ——そんなの、無理だ。無理に決まってる。  他のあやかしたちのように、全ての命を等しく考えることなど自分にはきっとできない。自分に流れる人の血を、自分の中に確かにある人としての感情を、必ず意識してしまう。  そんな自分を、彼らはどう思うだろう。面と向かって呆れられたり軽蔑されるのも辛いが、ミソラの手前、腫れ物に触るように敬遠されたなら、それはもっと耐え難いに違いない。  荷物にしかなれない自分が、ひどく辛かった。 「俺はもう、子どもじゃないのに……」  口に出すと一層寂しさが込み上げ、蘇芳は滲みそうになった涙をごしごしと手の甲で拭う。  ——俺はもう、子どもじゃない……だけどここでは、一人前になることはできない。この先も、ずっと……  このまま、ずっと曖昧にし続けることはできないと蘇芳も感じ始めていた。この辛さから、逃れたかった。  ——でも、どうやって……?  考えてもわからなくて、途方に暮れる。聞けるような相手も、いない。  日課のようにあやかしたちのところへ行っていたのも今は余計に気持ちが重たくなるようで、足が遠のいている。  何の決心もできないまま、時間だけがいたずらに過ぎていった。

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