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第40話 期待と嘲笑
「……っ」
自分以外に、いるかもしれないと思ったことさえなかった。初めて出会う〝同類〟に、蘇芳は束の間言葉が出ず、晴弥の顔を見つめて固まる。
ようやく我に返ると、脳裏に浮かんだ疑問が考える余裕もなく口に出た。
「ほ、他にも、いるんですか。その、俺と、同じ……」
自分以外にもいるというなら、その人たちにも会ってみたい。聞きたいことが山ほどある。
しかし晴弥は頭を横に振った。
「いいや、少なくとも俺は知らん。そもそも人間からしたらあやかしは良くて神、下手をすれば化け物だ。どちらにしてもそんな恐れの対象とまともに夫婦になろうと思う人間の方が稀だろう。俺やお前はその稀な例の産物なわけだが……まあそういう稀な出来事が起こって子を成したとしても、その子どもがあやかしの庇護を運よく受けられればいいが、あいつらは大抵つがいには執着してもその子には情が薄いことがほとんどだ。俺やお前が例外ってだけで、まず生き延びることはできないだろう」
化け物、という言葉に蘇芳の胸がずきりと痛む。しかし晴弥の言うことはもっともだった。蘇芳自身、ミソラが気まぐれを起こして拾ってこなければ、あのまま自分の命はなかっただろう。
一瞬抱いた期待をあっさり否定され、蘇芳は肩を落とした。
けれど、そう考えると、こうして蘇芳が同じ〝合いの子〟である晴弥に会うことができたのは、幾つもの偶然の重なった、途方もない巡り合わせだとも思える。こんな偶然が、果たして起こり得るものだろうか。
それなら、と改めて蘇芳は思った。それなら、わかるはずではないか。自分の境遇を。ここまで追い詰められていることを。
「それなら、わかるでしょう!? 誰でもいいなんて思ってない、俺は普通に、ただ普通に人として生きたかった! あなたのことは、俺も知っていました。いや、知っていたわけではないけれど、ずっと前から姿をお見かけしていました。まさか、俺と同じだとは知らなかったけど」
何も知らなかったけれど、忘れられなかった。
「助けてくれたのが、あなたでよかったって、思ったんだ……」
だって、あんなに会いたかった。
しかし、言葉にしてから、これではまるで、誰でもいいわけではなく、晴弥がよかったと言っているのに等しいことに思い至って、蘇芳は急に顔が熱くなる。でも、誰でもいいわけがなかった。こうなることをはっきり望んでいたわけではないけれど、確かに、今も抗えないほどの、うまく言葉にならない何かを晴弥に感じている。
しかし、くすぐったい気恥ずかしさは乾いた笑いに打ち消された。
「とことん、おめでたい頭をしてんだな」
「は……?」
その声と同じくらい冷え切った視線を投げかけられて、蘇芳は水を浴びせられたように心臓が痛んだ。うまく息ができない。今までの嫌味とは違う、あからさまな、敵意にも近いもの。蘇芳がこれまで向けられたことのない感情だった。
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