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どうしたらいいの?

「ルーファス、狭量な男は嫌われるぞ」 「レナルド、余計なことをいうな!」 すごく仲の良さそうな二人だな。 こうやって言い合えるって楽しそう。 「すぐに嫉妬などする私のことを、嫌いになってはいないか……?」 「えっ?」 彼に言われたことが気になったんだろうか。 なんだかすごく素直な人なんだな。 「そんな……嫌いだなんて……」 「そうか! よかった!」 僕の言葉に安心したようにぎゅっと抱きしめ満面の笑みを見せてくれる彼に嫌な気持ちなんて全くなかった。 「おい、ルーファス。いい加減、彼の素性とか名前とか聞いたらどうなんだ?」 「あ、ああ。そうだな。その前に先に自分のことを話しておかねばな」 思い出したように自己紹介を始めた彼の言葉に、僕は驚くしかできなかった。 「私は、ルーファス・フォン・リスティア。このリスティア王国の国王だ」 「こ、国王……さま?」 ふぇー、初めて見た。 国王さまって……こんな感じなんだ……。 ってか、リスティア王国ってどこ? 聞いたことない。 もしかして……いや、ちょっと薄々感じてたけど……やっぱりここ、異世界……なんじゃないの? だってそうでもなきゃ、こんな短時間に移動できるわけないし、そもそも僕パスポートも持ってなければ飛行機にだって乗ってないんだし……。 あの湖の光が僕をこのリスティア王国っていう場所に連れてきたってこと? うそ……っ、僕、無事に帰れるのかな……。 「美しい君……あなたの名前を私に授けてはくれぬか?」 「えっ? あ、僕は月坂(つきさか)(れん)です」 「ツ、キ、サカ……レン?」 辿々しくも一生懸命間違えずに発音してくれようとしてる。 きっとここの人には月坂は言いにくいんだろうな。 この人……ルーファスさんって言ったっけ。 すごくいい人だ。 王さまだって聞いたから驚いたけど、なんだかイメージと違うな。 「あの、レンです。レンと呼んでください」 「レン!」 わぁ、なんて嬉しそうに笑うんだろう。 なんだかこっちまで嬉しくなってしまう。 「良い名だ。レン」 「あ、ありがとうございます」 そこまで褒められるとなんだかくすぐったい。 「それでレンはどこから来たんだ?」 「それは……信じてもらえるかわからないんですけど……この世界とは違う世界から、連れてこられちゃったみたいなんです……」 「違う世界から? もしかして、あの湖が光ったりしなかったか?」 「あ、はい! そうです! 湖で絵を描いてたら、青い湖が夕焼けで赤く染まった瞬間、とつぜん真っ白な眩しい光が湖を覆い尽くすように光りだして……気づいたらあの場所にいたんです」 僕が説明すると、彼はハッとした様子で、後ろにいる彼に声をかけた。 「レナルド、聞いたか?」 「ああ、俺たちが見たのと同じような光だな」 「おそらくその光がレンを私の元に連れてきてくれたのだろうな……ということは、あの光は神がしたことではないか?」 「そうかもしれないな。レンくんが違う世界にいたのなら、お前の伴侶がこの世界のどこを探してもいないはずだな」 「そうだな、レンがその湖に近づくのを神も待っていたのかもしれないな」 「あ、あの、国王さま……それで、この指輪なんですけど……」 ルーファスさんと後ろの彼レナルドさんとの話も気になるけれど、とりあえずはずっと指に嵌まったままになっているこの高価そうな指輪をどうにかしてほしくて左手を掲げて見せた。 けれど、彼は急に少し拗ねたような表情に変わり、 「レン、国王さまではなく、ルーファスと呼んでくれないか?」 と言ってきた。 「えっ? でも、それは……」 「レンには名前で呼ばれたいのだ。ダメか?」 「でも、いいんですか……? 僕みたいなのが王さまを名前で呼ぶなんて」 「レンだから、名前で呼ばれたいんだ。頼む、そうしてくれ」 「は、はい。それじゃあ……ルーファス、さん」 「『さん』はいらないのだがな」 いやいや、会って早々流石に呼び捨てにはできないでしょう……。 しかも王さまだし……。 「ルーファス、いきなり焦らせるのは良くないぞ。これからたっぷり時間はあるんだ。呼び名はおいおいでいいだろう」 「まぁ、そうだな」 後ろにいた彼の言葉にルーファスさんは渋々ながらも納得して見せた。 「それで、その指輪のことだが……」 「はい。これ、失くしたりしたら大変なので、取ってもらっていいですか?」 「大丈夫、これは失くしはしないよ」 にっこりと笑顔を浮かべるルーファスさんに僕は意味がわからなかった。 「えっ? それはどういう……?」 「これはレンのための指輪だから」 「僕のため……?」 「ああ。これは私の生涯の伴侶のみがつけることを許された指輪なのだ。私はレンと出会う日を15年待ち続けていたのだよ」 さっきも言ってたけど……伴侶ってどういう意味だっけ? 結婚相手みたいな意味じゃなかった? 「いやいや、伴侶って……僕、男ですけど……」 小柄で体型も華奢だし、顔立ちも母さん似だから女の子にみられることもあるけどさ。 「性別など問題ない。神が私の伴侶にレンを選んでくれたのだ。それに、そもそも私は指輪など関係なく……あの湖でレンと出会ったあの瞬間から君に惹かれていた」 いやいや、惹かれてたってそんなこと言われてもそんな簡単に了承なんてできないし、そもそも早く帰らなきゃ! ここにずっといるなんてできないよ。 「そんな……でも、僕、帰らないと! みんな心配してると思うので……」 「だめだ! せっかく出会えたのに! 君を絶対に帰さない!」 「そんな……っ。僕……困ります……うっ、うっ……」 どうしていいかわからなくなって、気づけば泣いてしまっていた。 「レン――っ!」 「おい、ルーファス。泣かせてどうするんだ」 「レン……私の伴侶になることがそんなに嫌なのか……?」 嫌とかそんなことわからないけど、でも……もう帰れないなんて、考えられなくて……。 僕はそう答えていいのかもわからずに、ただ泣き続けることしかできなかった。 ルーファスさんは泣いている僕をそっと抱きしめて、 「レンがそこまで嫌がるのなら無理強いはしない。レンが元の世界に戻れるかどうか調べてみよう」 と言ってくれた。 「ほんと、ですか……?」 「ああ、私は嘘は吐かないよ」 「おい、ルーファス! いいのか? ようやく見つかった生涯の伴侶だろ? お前、この子と離れたら一生ひとりだぞ! わかってるのか? それに、この国だってどうなるか――」 「レナルド! それ以上言うなっ! 私はレンが幸せならそれがいいんだ。レンを泣かせてまでこの世界にとどめさせたくはない」 「だが……」 レナルドさんは何かいいかけたけれど、結局そのまま黙ったままだった。

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