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レンへの対応
「あ、えっ……あ、あのお方が……ご、ご伴侶さま……?」
「そうだ。レンという名だ」
「…………」
「おい、クリフ? 聞いているか?」
私を見ながら茫然とその場に佇むクリフの前で手を振ると、我に返るや否や、
「おおっ! なんということでしょうっ! ルーファスさまのご伴侶さまがとうとうお越しになられた!! ああーっ、こんなにめでたいことがありましょうか! すぐに国内中に知らせて、すぐにでも婚礼の儀を執り行いましょう!」
と興奮しきった様子で大声で捲し立て始めた。
ああー、やはりこうなったか……。
まぁあれだけ待ち侘びていたのだからな。
騒いでしまう気持ちはわかる。
私とて同じだ。
だが、とりあえず、落ち着かせなければな。
「クリフ! 少し落ち着け」
「これが落ち着いていられましょうか! ああ、ようやくエルヴィスさまの御前にご報告ができます」
興奮冷めやらぬ様子で天を仰ぎ見るクリフに
「いいから、少し落ち着いて私の話を聞け!」
大声を出すとクリフも何かしらの違和感に気づいたのか、静かにこちらを向いた。
「私の伴侶について大事な話があるのだ」
私の真剣な表情にクリフはようやく落ち着きを取り戻したように見えた。
「実はな……私の生涯の伴侶・レンはこの世のものではない」
「――っ、えっ? この世のものではない? どういうことでございますか?」
「正確に言えば、レンは異世界からこの世界の私の元へ連れてこられたのだ。あの王家の湖によってな」
「い、異世界から……? そんなことが……?」
「ああ。あの私の指輪が異世界からレンを連れてきたようだ」
あれほどの宝石を使ってでもレンをこの世界に迎え入れたかったのだろうな。
ということはレンはこの世界に無くてはならない重要人物だとも言える。
「しかし、レンは自分の世界に戻りたいと訴えている」
「えっ? それは……っ」
「ああ。私としてもようやく見つかった生涯の伴侶だ。手放しなどしたくはない。だが……レンはあちらの世界に家族がいる。両親との突然の別れが辛いことは私もよくわかっている」
「……はい。その通りでございます」
父上と母上を事故で亡くしたあの日、どれほどの後悔をしたか……。
もっと話をしておけばよかった。
もっと自分の気持ちを伝えておけばよかったと何度思ったか知れやしない。
「もし、元の世界に戻れる方法があるのならば、私はレンを帰してやりたいと思っているのだ」
「ルーファスさま……ルーファスさまはそれでよろしいのですか?」
「もちろん正直に言えば、レンを帰したくない。レンに会う前ならともかく、レンと出会ってしまった今は離れるのは身体を半分もぎ取られるような思いだ。きっとレンがいなくなった後は私はおそらく廃人のようになるだろう」
「ならば――」
「それでも! レンが家族の元で幸せになれるというのなら、私はそうさせるしかない。伴侶の悲しむ顔など見たくないのだ……」
「ルーファスさま……」
そうだ。
私の思いはただ一つ。
レンが幸せでいられるかということだけ。
「王家の書庫にこの国の全ての情報が入っております。そこで探して見つからなければ、おそらく元に戻るのは無理かと……」
「そうだな、わかった。それでは明日から探すとしよう。全ての書物を調べるまではレンの発表は控えてくれ」
「承知いたしました。それではルーファスさまのお客さまということで丁重におもてなしさせていただきます。ご伴侶さまはレンさまとお呼びいたします。レンさまは客間をお使いになりますか?」
「いや、私と同じ部屋だ。決まっているだろう? 一人にさせて私の伴侶に何かあっては問題だからな」
「承知いたしました」
「それから、レンの世話は全て私がやる」
「全て……と仰いますと?」
クリフは目を丸くして聞き返してきたが、
「だから、全てだ。着替えも食事も風呂も寝るのも全て私が世話をする。そして、お前たちは決してそれに異を唱えるな。レンはこちらの風習は何も知らないのだ。レンは素直な子だから、着替えも食事も風呂も手伝って貰うものだと言えばその通りにするはずだ」
というと
「ですが、それは……」
と流石に難色を示した。
レンが私の生涯の伴侶とは知らない使用人たちから見れば国王が客人の世話をするなど確実におかしな光景だからな。
「私には時間がない。もし、レンが自分の世界に戻っていけば、私はレンの思い出だけを糧に生きていかねばならぬ。そのための思い出を作らせてくれてもいいだろう? それに同じ時間を共有して私のことを少しでも思ってくれれば、こちらにいたいと留まってくれるかも知れぬ」
「――っ、なるほど」
私の言葉にクリフは納得してくれたようだ。
レンにここに留まって欲しいのは私だけでなく、クリフも、そしてリスティア王国の皆が思うことだからな。
「あの……つかぬことをお伺い致しますが……」
「なんだ?」
「レンさまはお幾つでいらっしゃいますか? 流石に成人にも満たないお方に淫らなことは……」
「安心しろ。レンは21だ、とっくに成人している」
「えっ??? 21歳??? それはまことでございますか?」
「ああ。間違いない。言っておくが数の数え方もこちらと同じだ。あちらの世界は小柄で童顔なものが多いのかも知れないな」
「成人なさっているとのことでひとまず安心いたしました。ですが、ルーファスさま! くれぐれも無理強いなどなさりませんように……」
「わかってる! 無理強いなどするわけがないだろう! 私をなんだと思っているのだ!」
クリフの反応は気になるが、ひとまずこれでレンへの対応は大丈夫だろう。
早く部屋に戻るとするか。
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