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レンの笑顔を見ていられたら……
<sideルーファス>
王家の書庫でひたすら真剣に書物を読み耽るレンを見て、複雑な思いを抱えていた。
レンにとって望むことをしてあげたいと思いつつも、元の世界に帰る方法など見つからなければいいと思う自分もいて、それがレンへの裏切りではないのかと自分で自分が許せない。
けれど、もし、レンが本当に元の世界に帰ってしまったら……?
もう私は、ずっと待ち続けた生涯の伴侶と離れて生きていける気がしないのだ。
出会わないうちなら我慢もできた。
それこそ、一生一人でいる覚悟もしていたのだ。
だが、私は出会ってしまった。
そして、レンの温もりも抱きしめた感触も私を呼ぶ可愛らしい声も全て知ってしまった。
それを何もなかったことにして今まで通り暮らすことなどできるはずがない。
そう思いながらも、あんなにも真剣に元の世界に戻れる方法を探そうとしているレンを止めることもできない。
そうだ。
私はただレンに嫌われたくないだけなのだ。
物分かりがいい風を装っているが、心の中ではレンに帰ってほしくない。
ただそれだけだ。
けれど、レンが両親を恋しがって悲しむ姿も見たくない。
ああ、もう私はどうしたらいいのだろうな……。
「ルーファス、お前……酷い顔をしてる。少し休憩しないか?」
「レナルド……」
「レンくんもそろそろ休憩させないと、あの子の身体には負担がかかりすぎていないか? クリフに伝えてくるから、お前はレンくんに声をかけておいてくれ」
確かにそうだ。
あの小さな身体は体力も消耗しやすいことだろう。
私はレンに中庭で食事にしようと声をかけた。
すると、嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
ああ、こうやってレンの笑顔をずっと見ていられたら……私はそれだけで幸せでいられるのに。
「わぁっ、すっごく広くて綺麗なお庭ですね。花壇も噴水も綺麗っ!!」
「ふふっ。気に入ってもらえて嬉しいよ。今日はいい天気だし、外で食べるにはもってこいだな」
「ルーファスさま、あちらの東屋にお食事の支度が整っております」
私たちの姿を見かけてさっと近づいてきたクリフが示した場所を見れば、数人の使用人たちが我々が到着するのを待ちかねているようだ。
遠目に見ても、東屋のテーブルには綺麗に食事が並べられているのがわかる。
だが、せっかくならレンを喜ばせたいのだ。
「東屋か……」
「何かございましたか?」
「レン。せっかくこんなにいい天気なのだから、草の上に敷物を敷いてその上で食事をしないか?」
「わぁ、楽しそうですね」
「そうだろう? クリフ、せっかく用意してくれたところ悪いがそのようにしてもらえるか?」
「承知いたしました」
クリフはそういうが早いが、すぐに東屋へ駆け出して行きあっという間に大きな木の下に敷物を敷き、低めのテーブルに料理を綺麗に並べ直していた。
「すごいっ! もう準備ができてますね」
「ああ、この城の使用人たちは皆優秀だからな」
レンの手を取って、木の下に向かうとレンはさっと靴を脱いで敷物の上に乗った。
「レン? どうして靴を脱いだのだ?」
「えっ? だって、靴のままでは敷物が汚れてしまいますよ? そうなったら洗うのも大変ですし、それに……こんなふかふかの敷物は裸足の方が絶対気持ちいいじゃないですか。ルーファスさんも裸足になりましょうよ」
そう言ってにっこりと女神のように微笑むレンの姿に私はもちろん、レナルドもクリフもそして、周りにいた使用人たちもハッと息を呑んだ。
ああ、私の伴侶はなんと思慮深いのだろうな。
「そうか。なら私も靴を脱ぐとしよう」
「ふふっ。はい」
しかし、国王が人前で靴を脱ぐなど考えられないことだ。
クリフもレナルドも私の行動に驚いているが、レンの誘いを断ることなどできるはずがない。
レンを待たせたくなくて急いでブーツの紐を引き、脱ごうとすると、
「あ、僕が脱がせてあげますよ」
そう言って、驚く私をよそにレンは私の前に座り込み、私の足を膝の上に乗せ小さな手で重い私の靴を脱がせてくれた。
「ルーファスさん、こっちの足も出してください」
「あ、ああ」
私は目の前で起きていることが信じられず、ただただ茫然と足を差し出すと、レンは嬉しそうに靴を脱がせてくれた。
「さぁ脱げました。どうですか? 裸足で敷物の上に乗るのもなかなか気持ちいいでしょう?」
「ああ、そうだな。実に気持ちがいい」
裸足で敷物に乗るなど、こんなこと初めてだ。
だが、敷物の下にある土や草の感触が足から伝わってくる。
レンの言う通り、本当に気持ちがいいな。
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