24 / 59

不思議なふたり

「なら私も靴を脱ぐとしよう」 ルーファスのその言葉にクリフは驚きの表情を見せ、止めようとしたが私がさっと手を伸ばし制すと、クリフははっと息を呑んで踏みとどまった。 クリフが止めようとする気持ちは痛いほどわかる。 リスティア王国の国王ともあろうものが人前で裸足になるなどもってのほかだ。 だが、あの嬉しそうなルーファスの表情を見ては止めることなどできるはずもない。 今は静かに見守っていてあげよう。 少しでも二人が楽しい時間を過ごせるように。 すると、急いでブーツの紐を取り靴を脱ごうとするルーファスの前に、突然レンくんがしゃがみ込んだ。 「――っ!!!」 私もクリフも、そして当の本人であるルーファスも、突然のレンくんの行動に驚きを隠せなかった。 だが、レンくんは動じることなく 「僕が脱がせてあげます」 とルーファスの足を膝に乗せ、丁寧に靴を脱がせていく。 そして、もう片方も同じようにあっという間に靴を脱がせた。 その手慣れた手つきに驚くのはもちろんのことだが、おそらくレンくんは靴を脱がせることがどういう意味を持つか知らないのだろう。 レンくんのいた世界がどうかは知らないが、この世界では靴を脱ぐのは風呂か、ベッドに入る時のみ。 すなわち、相手の靴を脱がせるということは、今から愛し合いたいという意味を表すことになるのだ。 レンくんのあの表情を見れば、レンくんにそんな気持ちはさらさらないのはわかる。 だが、ルーファスにしてみればドキドキものだろう。 愛しい人からそのようなことをされてよくぞ平気なふりができるものだ。 本当にルーファスの忍耐力に感心する。 敷物の上に裸足で下り立ったルーファスは幸せそうな笑みを浮かべ、レンくんと話をしている。 ああ、きっとこれからこの二人の中では中庭での昼食に裸足がつきものになるのだろうな。 「クリフ、あれが二人のルールだ。尊重してやってくれ」 「承知いたしました」 おそらく前国王であるエルヴィスさまとクレアさまにも二人だけのルールがあったはずだ。 いつかきっと我が息子ウォーレスも、ルーファスとレンくんのように、生涯の伴侶と二人だけの甘いルールを作っていくのだろう。 その時は私もクリフのように静かに見守ってやらねばな。 広い敷物にピッタリと寄り添って座るルーファスとレンくんの前には、外で食べやすいようにと配慮された料理が並んでいる。 クリフが二人の様子をじっと見つめているのは、レンくんが何を手に取るか、どういうものを好むのかを知るためだろう。 本当にクリフは執事として優秀だな。 レンくんがたくさんの料理の中からサンドイッチが食べたいというと、ルーファスはそれを手に取り、レンくんの口元へ運ぶ。 それをレンくんはなんの躊躇いもなく口を開け、それが当然だとでもいうようにルーファスの差し出したサンドイッチを美味しそうに頬張った。 「な――っ!」 驚く私を横目にクリフも使用人たちも気にしていない様子だ。 「クリフ……今のを見て、驚かないのか?」 「はい。昨夜からあのご様子ですので」 「昨夜から?」 レンくんは元の世界に帰りたいのではなかったのか? 驚く私の前でさらに驚くべきことが起こった。 サンドイッチがよほど美味しかったらしいレンくんはルーファスにも食べるように勧めると、ルーファスはレンくんの食べかけが食べたいと言い出したのだ。 国王が人の食べかけを口にしたいと言い出すのも前代未聞であるが、誰かの食べかけを口にするとすれば、それはもう伴侶しかいない。 それが普通だ。 ルーファスが手に持っていたレンくんの食べかけのサンドイッチを口に運ぼうとすると、 「ああ、ダメですよ。ルーファスさん」 とレンくんに止められてしまった。 ああ、流石にこれはな……。 と思っていると、レンくんはルーファスの手から自分の食べかけのサンドイッチを取り、 「もう! 僕が食べさせるんでしょう? 自分で食べちゃダメです」 と可愛らしく怒りながら、ルーファスに 「あ〜ん」 と優しく甘い声をかけルーファスの口へと運んだ。 私は一体何を見せられているのだ? この二人はもうすっかり夫夫のようではないか。 んっ? レンくんはこの世界に留まり、ルーファスの伴侶となってこの国を守っていく決心がついたのか? いやいや、さっきまで書庫で真剣に帰る方法を探していたはずだ。 一体どういうことなのだ? 二人の様子を見れば、どう見たって仲睦まじい新婚夫夫。 離れ離れになることなど考えられないようなその姿に首を傾げながら、二人の甘い昼食風景をただただ見守るしかなかった。

ともだちにシェアしよう!