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幸せに向かって

「とりあえず、まだこの世界に来られたばかりですし、今だけミノルさまとヤヨイさまとお呼びすることにして、これからゆっくりとお話ししましょう」 私がそういうと、レンくんのご両親は納得してくれた。 「クリフ、すぐにお二人の部屋の準備を。陛下、お部屋はどちらになさいますか?」 「ああ、そうだな。では<(あかつき)の間>に」 「承知いたしました。それではミノルさま。ヤヨイさま。お部屋にご案内いたします」 ルーファスの言葉にすぐにクリフがレンくんのご両親に声をかける。 「あの、蓮は……?」 レンくんの母上が気にしているようだが、これからルーファスとレンくんには大事な儀式が待っている。 流石にこれ以上ルーファスを待たせると爆発しかねない。 「申し訳ありません。レンさまには今から陛下と共に行う大切な儀式が待っております。そちらが終わりましたら、またゆっくりとお会いできますので、お先にお部屋に行かれてこれからのお話をいたしましょう」 「そう、ですか。わかりました。じゃあ、蓮。母さんたち、行くわね」 「う、うん。じゃあ、あとでね」 レンくんは少し照れながら母上と父上に手を振り、クリフと共に部屋から出て行くのを見送っていた。 私は扉から離れた場所でルーファスとレンくんを見守っていたのだが…… 「レン、よかったな。ご両親と会えて……」 「はい。まさかここで会えるなんて思っても見なかったから驚きました」 「レンを大切にするという誓いにも立ち会っていただけたし、これで心置きなくレンと愛し合うことができるな」 「ルーファスさんったら……」 「レン、もう我々は夫夫(ふうふ)なのだぞ。私のことはルーファスと呼んでくれ」 「でも国王さまを呼び捨てになんて……」 「いいか? レンはこの国の王である私が全身全霊をかけて愛する(つま)なのだぞ。いわば、この国で一番偉いのも同然だ。レンがルーファスと呼んでくれないのなら、私もレンさんというぞ」 「えっ……それは、いや、です……」 「ならば、ルーファスと呼んでくれるな?」 「……はい。ル、ルーファス……」 「く――っ!!!」 「レン、すぐに儀式に入ろう」 「儀式って……」 「初夜の儀式だ。レンと心も身体も繋ぎ合うこの日をどれだけ待ち侘びたことか……」 「じゃあ……抱っこ、してください……」 「ぐ――っ!!!」 「………………」 私の存在など二人の頭からは疾うに消え去っているのだろう。 婚礼衣装を着たレンくんを軽々と抱き上げ、ルーファスは一目散に自室へと駆けていった。 砂糖にたっぷりと蜂蜜をかけたような甘ったるい会話を直に聞いてしまった。 私もオリビアとあれほど甘ったるい会話をしていただろうか? いや、あそこまでではなかったはずだ。 急に身体がぐったりとして疲れ果ててしまった。 私は重い身体を引き摺りながら、応接室を出てルーファスたちの部屋へと向かった。 駆け出していったから追いつくわけもないが、とりあえず確認だけはしておくか。 部屋の前には騎士たちが二人見張りをしているのが見える。 「おい、陛下は中に入られたか?」 その質問に騎士たちは少し青褪めた様子で、 「は、はい。先ほどお入りになりました」 と報告した。 「何かあったのか?」 「い、いえ。それが……陛下のご伴侶さまのお美しさについ見惚れてしまいまして……それで……」 おそらくレンくんに邪な視線を一瞬でもむけてしまったのだろう。 それでルーファスに睨まれた……と。 はーーっ。 余計なことを。 出てきた時が恐ろしいな。 「お前たちは下がって反省部屋に入っていろ。代わりの見張りの騎士にケヴィンとルースを」 「はっ」 ああ……やはり最初からケヴィンとルースにすべきだったのだ。 運の悪いことに二人は今日早朝訓練日だったからな。 本当に間の悪い……。 <sideルーファス> レナルドがなんとかレンの両親を納得させ、とりあえず部屋へと誘導してくれた。 本来なら、大切なレンの両親とゆっくりと話をしたいところではあるが、今は初夜が待っている。 初夜を滞りなく済ませて、私たちが心も身体も正式な夫夫となってから、ゆっくりとこれからのことを話しても遅くはないはずだ。 両親の部屋にと案内した<暁の間>は客間の中でも広く、そして我々の部屋から遠い。 我々の部屋の声は絶対に外に漏れ聞こえることはないが、すぐ近くに両親たちがいると思えばレンが少し恥ずかしく思うかもしれない。 そう思ったのだ。 だからこそ、両親の部屋は<暁の間>にしたのだが、きっとその意図はクリフも気づいていることだろう。 なんの異を唱えることなく連れていったのが何よりの証拠だ。 レンはこれから初夜の儀式だというと恥じらっていたが、拒む様子はない。 おそらくあの練習で快感を覚えたからだろう。 私のことをまだ敬称付きで呼ぶレンに夫夫になったのだから呼び捨てにして欲しいというと困っていた様子だったが、私も敬称付きで呼ぶぞというと嫌だと言ってくれた。 私が呼び捨てで呼ぶことを喜んでくれているということだな。 それはそれですごく嬉しいことだ。 レンから初めて、 「……はい。ル、ルーファス……」 と呼ばれた時は身体中の血が沸き上がるような興奮を覚えた。 あまりの嬉しさにすぐに初夜の儀式をしようと誘うと、 「じゃあ……抱っこ、してください……」 と恥じらいながら手を伸ばしてくる。 ああっ、もう! レンは私を一体どうしたいのだろう! 私は何もかも忘れてレンを抱き上げ、急いで自室へと走った。 部屋の前で見張りをしている騎士が目に入り、 「部屋の扉を開けろ!」 と指示を出すと、騎士たちの視線がレンに向いたのがわかった。 レンの麗しい姿を見てほんのりと頬を染めたのも私は見逃さなかった。 私は部屋に入りながら、騎士たちに睨みを利かせた。 びくついているのがわかったが今はどうでもいい。 私にはこれから幸せな時間が待っているのだから……。

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