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第3話

「此処は何処だ?」 そう一人呟きながら俺は辺りを見回した。 時折、小鳥の囀りが聞こえてくるだけで、辺りには静寂が漂っている。この異常な状況下の中、俺は心臓が早鐘のように鼓動しているのを感じていた。 「ここ……、どこなんだ? 俺は何でここにいるんだ?」 自分が置かれている状況が全く分からず、焦燥感だけが募っていく。そんな状況の中、俺の脳裏には一つの仮説が浮かんでいた。それは『夢』である可能性だ。『明晰夢』という言葉を聞いた事はあるだろうか? 睡眠中に見る夢の中で、自分は夢を見ていると自覚している状態を指す言葉だ。そして、その状態のまま自分の行動を制御する事が出来るのだ。 つまり……、この場所が俺の無意識下で作り出された空間だとすれば、その外にある現実世界こそが俺が今見ている夢である可能性だってあるのだ。もしそうであれば……、このまま夢を見続ければ、いつかは目が覚めるかもしれない…。 そう思った瞬間、俺の心には『安堵』の感情が芽生えた。本日2度目の目覚めとなるが。俺はどのくらい眠っただろうか、ほんの数十分な気もするし、1時間くらい眠っていた気もする。 目を開けて直ぐに飛び込んで来たのは……頭の頭痛と眩い光。 安堵したせいが、さっき迄気が付かなかった頬を撫でる風が、寒くて思わず身震を感じた。辺りはまだ真っ暗だが、東の空が薄っすらと白みはじめている。あと一時間もしないうちに太陽が顔を出すだろう。(と言うことは、俺はアレから一晩此処で明かした事になる)辺りを見回しでみるが、森の中?なのか誰も居ない様だ。(俺、こんな所に捨てられた?) 「さてと、どうすっかな」 とりあえずポケットに入っていた、スマートフォンを取り出してみるが……圏外のため使いものにならない。 「……ま、予想はしてたけどな」 ──やはり通信系は使えないか。電波が届いていないというより、そもそも存在していない気がする。 「夢にしては妙にリアルだな…」 感じたことだが、ここは俺の知っている常識や物理法則が一切通用しない世界?かもしれない。 (例えば、人食い村とか…。呪いの屋敷とか…。実はここはゲームの世界で俺は何かの拍子で異世界に飛ばされちゃったりして…) 「だとしたら、この状況も頷けるってことか」 (空とか飛べたりしねえかな?)そう一人呟きながら俺は、再度辺りを見回した。時折、小鳥の囀りが聞こえてくるだけで辺りには静寂が漂っている。 このままじゃ埒が明かないと思い立った俺は、とりあえず辺りを詮索しだした。でも暫く歩いてどのくらいの時間が経過したのだろう。 まったくといって良いほど風景が変わることもなく、延々と同じ光景が続いていた。 明らかにおかしい……。 そう感じ始めた時には既に遅かったのかもしれない。 俺に話しかけたのは1匹の黒猫だった。 (ヤバい、俺って動物と話せる様なファンタジー系が好きだったかな?)いつからそこに居たのか全く分からなかったが、猫はちょこんと俺の前に座ってこう続けた。 「ずっと見てたよ……君がここに来た時からずぅっとね」黒猫が喋ったことも衝撃的ではあったが、それよりもここは一体どこで、この黒猫は一体何者なのだろうか。すると黒猫はこちらのそんな気持ちを見透かしたかのように答えたのだ。 「ここは世界と世界の狭間さ……猫の間だけに」 (冗談を言える程、ノリの良い奴みたいだ) 「お前は何者なんだ?此処は何処なんだよ」 「まだ、秘密」 意味が分からない……。 俺は呆れて踵を返して帰ろうとすると、またもや黒猫に呼び止められる。 「お待ちをご主人サマ……」 「誰がご主人サマだ、なんだよ?」 「詳しくは言えないけど、この先をずーと真っ直ぐ行くと何かあるかもよ」 「何じゃそりゃ、何かって何だよ」 「多分、ご主人サマの欲しいものじゃないかな?」 「疑問系で返すなよ。はぁ、俺の欲しいもの?それは何だ?」 「内緒。でもきっと手に入れれば役に立つと思うし……うーん、そのうち分かるからさっ!とりあえず行ってみな」 「おいおい……」 「そろそろ行かないと時間的にもマズイかも」 「時間がないのか?」 「此処は日が上がらない場所だから…」 「日が上がらない?は?なんだそれ」 俺の返事を待たずに、黒猫は森の奥地へと走り去っていく。 「な、ちょっと待てよ!」 俺はそれを追いかけて森の中へ入っていったが、そこにさっきの黒猫の姿はもう無かった。 「おーい、どこいったんだ?」 周りを見渡してみるが、黒猫の姿は無く返事も帰ってこない。 「……置いてけぼりかよ……」 途方に暮れる俺は取りあえず森の中を歩き出す。 これが俺のこの世界での、記念すべき第一日目の出来事だった。

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