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第5話

何処からか、一人の男が現れた。身なりの良い着物男子といった風貌の男性。男は驚いた顔を一瞬するが、直ぐに笑みを浮かべながりコチラに近づいてきた。(良かった、親切そうな人ぽい)少し、警戒心が緩む。 住職「あぁ、驚かせてしまってすまない。 私はこの寺の住職をしている者だ。こんな所に人が来るのは珍しいのでな、少し興味があってね」 「あっ、すみません俺。えーと気が付いたらここの森で倒れてて、何が何だか分からないんです」 (変な奴と思われてなければ良いけど)不安ながらも住職の質問に答えようと話を続ける。 住職「ほう!君の様な若い子がか?」興味深そうに聞き返してくる住職に慌てて答える。 「なんでここに居るのか分からなくて。あっでも決して怪しい者ではないので!」 住職「いや、別に疑っている訳では無いんだよ」そう言うと、住職は真面目な顔で俺を見る。 「もし良ければ私の寺へ来ると良い。事情がどうであれ、このまま放おって置くわけにもいくまい。それに何があったのか私に話してみないか?もしかしたら力になれるかもしれない」 (少し胡散臭いけど、此処に居ても仕方ないし、このままじゃ何も変わらないし) 俺はその寺の住職と言う男に、付いて行くことにした。さっき迄暗かった辺りも、いつの間にか外灯のお陰で明るくなる。俺はそこで、ふと疑問に思った事を質問してみた。 「そういえば、此処って集落的な何処なんでしょか?」 住職「ああ、此処は無明領域だよ」 「無明領域?」 俺は此処が何処なのか聞いたつもりだったのだが、返ってきたのは答えでは無かった。 住職「無明領域とは、まあ簡単に言えば生きた者が入っては行けない領域の事だ。」 「生きた者が、入っては行けない?じゃあ俺って死んでるってことですか⁉」(どうりで可笑しいと思ったんだ。誰かに後から殴られ、目を覚ますと知らない場所に居て、喋る猫ども会話が出来た)コレってつまり…。考えるだけで、急に怖くなり俺は無意識に声を荒げてしまった。だが、住職は落ち着いた様で「ごめんごめん。少し突拍子過ぎたね」と笑った。 住職「そう。君は死んではいないし、勿論幽霊でもないよ。まあ、いきなり言われても何の事だかわからないだろうからね。少し話をさせて貰おうかな。 この村は遠い昔。 人は死んだら死者になるだろ?だが、もしその死者が現世に未練などを残して死んだ場合、悪霊となりその生者を現世に引きずり込んでしまうんだ。 そうなると、死んだはずのその悪霊は生者の霊力を吸い取ることが出来るようになる。 そうすると、吸われた生者は生命力を失っていき死に至る。そしてそのまま悪霊に食われてしまう。 無明領域とはその名の通り生者が入れば生きて帰る事は出来ず、逆に死すれば未練や恨みを晴らす事の出来る、生と死の狭間の空間。昔此処がそう呼ばれていた場所さ」 「つまり……?」 住職「つまり、昔はこの村がその領域空間と呼ばれている場所だったってこと」 (ざっくり過ぎねーか?)内心そうツッコミを入れつつ、不安が過る。じゃあ此処って、幽霊が出る村とか。呪われた集落とかってこと? 「……お化け、出るんですか」 深刻そうな顔で、俺が尋ねると住職さんは「昔の言い伝えであってさっきの話は事実ではないよ」って笑ってた。俺は何だか、とんでもないことを聞いてしまった様に感じた。 住職「昔、この辺りで飢饉があってね。村で餓死者が出て、でもお坊さんは気付かなくてね。そんな時、女幽霊が現れて村人達に食料を恵んでくれたんだとさ」 「はあ……それで?」住職さんが話を続ける。 「それだけ」 「え? いや、それだけって」俺がさらに問い詰めようとすると、住職さんはニコニコしながら言った。 住職「それだけ」 「……え、それだけ?」 住職さんはコクンと頷いた。その話をするために俺のことをわざわざ呼んだのか? 住職「昔はお坊さんも飢え死に寸前だったてことさ。餓死しかかってる村人達の前に、女幽霊が現れてね……ふふ」 そう言って住職さんは微笑みながら去ってった。俺はポカーンとしながら暫く境内に佇んでいた。なんだそれ……作り話かよ!(俺はどこか安心した)

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