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第7話
「ソレはどういう意味だ」
黒猫は無言で此方を見詰めるだけで、何も言ってくれない。(話したくないってか)
「あー、はいはい。いいよ別に話さなくて」
と諦めがちに俺が言うと、猫は目を細める。
そんな態度をとる黒猫に嫌気がさした俺はため息を吐く。(何かを見透かしたような目でみる癖に、肝心の事は教えてくれないし)ふと、そう思った俺は何気なく質問を投げた。
「おい猫」
黒猫「おい猫って呼び方に品なさすぎ。で?なーに?」
(色々煩い奴だな)
「お前と会ったのって偶然か?」
黒猫「さぁ?なんでアンタが此処に居るのかも、何故出会ったのかも知らない」
「だよな。俺もよく分からん。目が覚めたら森の中にいたんだよな」
黒猫「本当に偶然だね」
「あぁ」
黒猫「じゃーね、少しだけ良いこと教えてあげる。
目覚めた時、最初に出会った者の言葉は信じるにゃ」
黒猫はいたずらっぽくニヤリと笑った。
(何で笑ってんだコイツ。意味分かんねー)
黒猫「ご主人サマが此処に居るのも、僕が此処に居るのも偶然。でもきっと必然」
(は?どういう意味だ?)
黒猫「その内意味が分かるさ。今はこの現実を楽しむと良い」黒猫は踵を返し歩き始めた。
「お、おい。何処に行くんだよ?」
少し心細くて声を掛ける。すると、面倒くさそうな顔で。
黒猫「ご主人サマには関係ないでしょ?」
黒猫は振り返りもせずにトコトコ歩いて行った。
(俺を置いて行った薄情な猫め)黒猫の姿が見えなくなると俺は肩の荷が落ちた。無意識の内に緊張していたようだ。
(全く……なんで俺がこんな事を……)そう思いながら、俺は溜息を一つ吐いた。
黒猫が何処かに行ってしまうと、暇になった俺はやる事もない為、暫くぼぉ…としていた。
(さて、どうしようか……。)俺は何か無いかポケットを漁ると、ガムが二つ出て来た。一つは苺味。もう一つはソーダ味だった。
「懐かしいなぁ……」
俺がガキの頃好きだった駄菓子屋に売っていたガムだ。子供の頃はよく食べていたものだ。そう言えば、暫くあの駄菓子屋にも行ってないな……などと考えていると、ある事に気が付いた。
「そう言えば、あの駄菓子屋って……」俺はその駄菓子屋に行った時の事を思い出していた。
(そう言えば、あの店も潰れたか……)
俺は昔よく通っていた駄菓子屋が潰れた事を思い出した。
元々寂れた場所にある店ではあったのだが、ある時を境に客がめっきりと減ってしまったのだ。理由は分からないが、きっと味が落ちたとか客のニーズに合わなくなったとかだろう。(そう言えば、あの店も確か……)そして、次に思い出したのは俺が引っ越して来たばかりの頃に行った小さな定食屋だ。そこで俺はある少女に出会う事になる。その少女は一つ年下の中学一年生だった。名前は『歌月』といい、その少女は綺麗な黒髪と整った顔立ちが特徴的で、見た目はとても可愛いのだが、性格に難があり、まるでお高く止まってるお嬢様のような性格をしていて俺は苦手だった。
(そう言えば、あの店も潰れたな……)最後に思い出したのは小さな定食屋だ。そこは昔ながらの大衆食堂みたいな感じで、メニューが豊富で量が多くて安くて美味いと評判の店だった。しかし、最近店主が体調を悪くしたらしく店を畳んでしまったのだ。最初はその事に少し寂しさを感じたのだが、直ぐにその感情は忘れてしまった。
俺が幼い頃に世話になった店が、一つまた一つと消えていく事に俺は一抹の寂しさを覚えていた。
しかし、「はぁ……」俺は溜息を吐くと頭を切り替えてポケットからガムを取り出した。そして包み紙を剥がして口の中に放り込んだ。口の中に広がった苺の甘酸っぱさが心地よい。そして暫くぼぉ……っとしていると、どこかで物音がした。
一瞬のことで、どこから聞こえた音かまでは分からなかったが、多分近くだと思う。
(もしかしたらあの猫が戻って来たのかも)
「猫?」俺は少し心配になり、慌てて辺りを見回した。が、異変はなかった。おかしいな、確かに物音はしたのに……。まあ、気のせいだろう。
そう思って油断した時たった。また、ガタッと先程より大きな音が聞こえた。俺は、さっと身構えた。その音がしたのは、俺の後ろ側だった。
(まさか、誰かがいる……)
恐怖にゆっくりと振り返ると、そこには男がいた。黒いコートを着ていて、顔が隠れているため年齢はよく分からなかった。ただ、その手には大きな斧が握られている。
(ひっ!)
「わぁっ!」俺はびっくりして尻もちをついてしまった。そしてそのまま後ずさりした。
(怖い!誰だコイツ!?)
男はずっと俺の方を見ていたが、俺が見ていることに気づくと、ゆっくりと口を開いた。
「こんな昼間に一人で何をしている?」男は低い静かな声で言った。その声は不思議と周りに反響していた。
俺は戸惑いながらも答えた。
「ひ、昼間?えっと……、今は夜だと思いますけど…」
俺が答えると男は少し驚いた様子だったが、すぐに先程までの声音に戻り言った。
「そうか……ならいい。」そして斧を担ぎ直し、背を向けて歩き出した。
(え?それだけ?)
俺は、その反応に驚きつつも慌ててその男に声をかけた。
「あ、あの!貴方は誰なんですか?」すると男は立ち止まり、ゆっくりと振り返り答えた。
「私の名前は『ぬえ』だ……」と言ってまた歩き出す。
は……。
そこで俺は目を覚ます。
(……ああ、夢か)
俺は胸を撫で下ろしつつ、時計を見る。まだ朝の5時だ。起きるには早い時間だが二度寝する気にもなれず、ベッドから起き上がり学校へ行く支度を始めた。
登校途中、同じ高校の制服を着た男子生徒がいたが気にせず歩き続ける。すると男子生徒は突然俺の方に近づいてきた。
「おいおい、らい無視かよ」
(え?誰?)
よく見るとそれは幼馴染みの『響介』だった。どうやら俺を待っていたようだ。「……お前か。何の用だよ」俺は素っ気なく答える。
「今日はご機嫌斜めか?」と響介はニヤつきながら茶化してきた。
「用がないなら行くぞ」と言って歩き出すと、響介は慌てて引き止めてきた。
「ちょっ……ちょっと待って!」そして少し言いにくそうに話し始めた。
「なあらい、最近変わったことねえ?」「……なんだよ突然」
「いいから答えて!」「特にないぞ」
「そっか、ならよかった」何故か響介はホッとした表情を浮かべた。
そして俺達はそのまま学校へ入って行った。
(なんなんだ一体……)俺は不思議に思いながら教室に入り自分の席に座る。すると隣の席の女子が話しかけてきた。
「おはよう、らい君!」彼女は俺のクラスメイトで『安堂 沙紀』だ。
「……ああ、おはよう」俺が挨拶を返すと彼女は嬉しそうに微笑んだ。そして彼女は鞄の中から本を取り出し読み始める。それを横目に見ながら俺は窓の外に目を向ける。外では桜の花びらが舞い散っているのが見えた。その光景はまるで絵画のようだった。(綺麗だな……)
俺はしばらくそれを眺めていたが、やがてホームルームの時間が近づいてきたので、自分の席に戻った。
授業が始まり休み時間になると、隣の席から話し声が聞こえてきた。どうやら隣のクラスの女子2人が話しているようだ。
「ねぇ、昨日のニュース見た?」と別の女子が言った。それに対してもう一人の女子が答える。「うん!あの事件だよね?確か殺人事件だって言ってた」
「そうそう!しかも被害者は若い男性だったんでしょ?」もう一人の女子が言うともう一人の女子は頷きながら言った。
「そうらしいね、でもなんか変じゃなかった?犯人の姿を見た人がいないとか……」すると突然教室の扉が開き、担任教師が入ってきた。俺達は慌てて席に着く。授業が始まりしばらくして、俺は眠気に襲われたため少しウトウトしていると、ふと隣の席からの視線を感じたので見てみると沙紀が俺をじっと見ていた。(なんだ?俺の顔に何かついてんのか?)
沙紀は俺の視線に気付くと、慌てて目を逸らす。
(なんだ?あいつ)俺は疑問に思いつつ授業を受けることにした。
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