9 / 10

1-8 お仕事紹介します

 月下香の甘く官能的な匂いと龍笛の妖しくも雄々しい響きが交ざりあい夢現のようで、非現実な雰囲気が瑪且達のいる空間を支配した。  不思議な調子の音は、龍が咆哮して何かを呼んでいるかのようだ。すると、乙人の少し前、瑪且の足元側の畳から黒い靄がどこからか溢れだしてくる。それは徐々に濃い色に変わっていき、深い闇が現れた。  その瞬間、瑪且はぶるりと背筋を震わせた。寒くもないのに全身に鳥肌が立つ。ガタッと音がして、そちらに視線をやると朱紀が片膝を立て、警戒心を露にしていた。それもそのはずで、深い闇からズズズッと重くヌルついたモノが擦れる音がして、ごぷっと粘着質な音と共に巨大な大蛇が顔を出した。 「っ…!!!」 「なっ…!?」  瑪且は喉をひきつらせ、朱紀も驚愕して声を溢す。  暗闇から尾まで出て全体像を現すと、天井まで届かんばかりの巨大さであった。真っ赤な二股の舌がチロチロと揺れている。鱗は黒光りして、気品ささえ感じられた。  乙人の飼う『色情魔』であった。色情霊とは違い、死んだものの魂ではない。自然の摂理の中で、魔として生まれたものだ。色情霊同様、人の色情を刺激し、それを糧にして生きている。ただし、色情霊よりも断然強力だ。  ピィーーっといっそう甲高い音が鳴ると丸い金色の真ん中で縦長の黒目が、瑪且を捉えた。  ビクッと瑪且が固まる。胎の中の生き霊も怯えたのか、動きが弱まる。しかし、不思議なことに体の熱は更に強まり、瑪且の雄は縮こまることなく主張したままだ。  視線がまったく外せないまま、大蛇がゆっくりと瑪且に近づいてくると恐怖から無意識に後ろへ逃げようとするが、葛葉がそれを邪魔した。 「まお…大丈夫だから」 「っ…っ…」  葛葉の優しい声も今は聞こえない。なぜなら、本能的な恐怖だからだ。必死に距離を計ろうとする瑪且の体を後ろから葛葉が抱き止める。大蛇の舌先が足先まで来ると、後ろへ行けないならとバタバタと足を動かして、どうにか離れさせようとする。すると、葛葉が朱紀へ視線をやった。 「朱紀。まおの足を掴んで?」 「っ、…はぁ?!」  朱紀がぎょっと葛葉を見る。冗談じゃないという顔だ。それは当たり前で、瑪且の足を掴むということは、恐ろしい大蛇と瑪且の間に入れということなのだ。 「大丈夫、君にはなにもしないよ。ほら、はやく」 「っ…クソ…」  悪態をつき、葛葉を一瞥してから朱紀は瑪且と大蛇の間に入る。瑪且はその間も必死で足をバタつかせており、朱紀が掴むのに苦労をした。瑪且の怯える姿を見て、さすがに朱紀も憐れむような苦い顔をするが、目の前で揺れる屹立した雄と縦に割れた穴が間近に見えてカァっと顔を赤らめピクピクと目元を震わした。  それでも、朱紀が命令に従って瑪且の両足を布団に縫い付けていると急に瑪且が「ひっっ!!」と悲鳴じみた声をあげた。朱紀が後ろを見るとそこに大蛇の姿はなく、代わりに床一面に大量の小さな蛇が瑪且の周りを囲んでいた。どうやら大蛇が姿を代えたようで、黒光りする鱗と金色の瞳は変わらず、瑪且を見続けている。  すると、朱紀の体はすり抜けて、瑪且の足先や指先に絡み付き、ズルズルと胸元へ向かっていく。蛇が触った箇所からまるで神経そのものを擦られたかのように、あり得ない快感が瑪且を襲う。ドロッと先走りが先端からひっきりなしに流れだし、まるでお漏らしをしているかのようになった。 「あっ、ぁ…っあぁ…っっ」  体の力が抜けていき、目の前の視界がグニャリと歪んでいく。色情魔は、人の霊体に直接影響をもたらす。その刺激は、通常ではあり得ないものだ。そうして、蛇が二匹、瑪且の尖りきった両方の乳首を舌先でなぶると、口を開いて牙を見せながらガブッとそこを噛んだ。 「ーーー~~~ッッッ!!!!」  瑪且は目を見開いて、声も上げずに痙攣した。噛んだ蛇はすぐに離れると、体に巻き付いていた別の蛇が同じ様に噛む。その度に、瑪且の体は大きく震えた。  痛みはなく、血も出ない。 なぜなら、蛇が噛んだのは瑪且の霊体だからだ。霊体自体を、色情魔に調教される。霊体と体は密接に関係しているが、体はいわば表皮で霊体の方が核の部分であるため、そこを開発されると体はひどく敏感になるのだ。   「ぉ、ア…ッッッ!!…ァアアアッッッ!!!」  目の前が白く何度もスパークする。快楽を感じる神経を直接刺激される感覚に、体も思考も焼き切れそうだ。  蛇への恐怖から過ぎた快楽への恐怖へ変わり、全身を真っ赤にさせながら瑪且は咄嗟に葛葉の腕を掴んだ。強い力で掴み爪を立ててしまい、葛葉の皮膚に引っ掻き傷を作る。痛みに葛葉が僅かに眉間へ皺を作るが、そのまま瑪且の好きなようにさせた。  徐々に瑪且の乳首が、男性のそれとは思えぬほど膨らみ卑猥さが増していく。汗と蛇が纏う粘液でテラテラと光り、まるで性器のようだ。それと共に瑪且の声も、更にか細く甲高い声になっていく。  そろそろ終わりが見えてきたところで葛葉が耳元で「頑張ったね、まお」と言うと龍笛が強く鳴り響き蛇が消えると同時に、葛葉の指先が両方の尖りを根元から擦って最後の引き金を引いた。 「ァ、ァアアアアーーーーッッッ!!!」  腰を大きく宙に浮かせて白濁をドロリと溢した。棒を辿り、双玉、そして、ひくつく蕾まで濡らしていく。   「ッッッ…ッッッ…」  深すぎる快楽に体の硬直が緩められず、腰を高く上げたまま痙攣を続ける。その動きに合わせて白濁が周りに飛び散ると瑪且の五芒星の上にも落ちた。  五芒星がいっそう赤く染まり、そこから黒い靄が溢れだしてくる。その瞬間、葛葉が低い声音で呪文をすかさず呟くと布団周りに置かれた護符が光り、瑪且を中心とした五芒星を作り上げた。すると、その光が天井まで柱のように輝くと瑪且から抜けた黒い靄が動きを止める。  痙攣している瑪且をそっと布団へ横たわらせると、その黒い靄を葛葉が片手で無遠慮に掴んだ。 口元は笑っているが、眼光は鋭い。  黒い靄はまるで怯えているかのように、葛葉の手の中で激しく動く。その動きをさらに封じ込めるようにグッと葛葉が力を入れているとその内、その靄が毛むくじゃらの腕へと変わった。  その腕をへし折るかの如く、葛葉の腕に血管が浮く。 「ぼくのまおのナカは、居心地が良かったかい?」  返事がないと分かっていながら、葛葉が問いかける。毛むくじゃらな腕は、ただただ葛葉の手から逃げようとするのみだ。 「…二度とおいたができないようにしてあげようね」  呪文の時よりも更に低く、温度のない声音で呟いた。そうして、「阿、卑、羅、吽、欠」と唱えるとキンッと一気に空気が冷え、続いて「窮奇(チォンジー)」と葛葉が呟くと強いつむじ風が下から舞い起こり、そのまま葛葉の手の中にいた生き霊もろとも上へ消えていった。  すると、護符も青い炎に包まれ、部屋の五芒星も役目を終えて消え去った。  夢現のようであった部屋が、現実に戻る。そうして、瑪且の下腹部の五芒星も赤みが薄れていつもの痣に戻った。ただし、長時間弄られ、色情魔に調教された体は、いまだに快感の余韻でピクピクと震えている。 (…おわっ…た…)  体力も気力も限界の瑪且は、今にも気絶しそうだ。ぐったりとした瑪且の頭を、慈愛に満ちた瞳で葛葉が優しく撫でる。 「後は全部やっておくから、休んでいいよ」 「…、…」  頷きたいが、疲れきった体は動かず、瞬きで答えた。そのまま眠りにつこうとした時、ふと自分の足を掴む手に力が入ったことに気付いた。  そういえば、朱紀が足を掴んだままだったことを思い出して、瑪且が視線を足元に向ける。すると、そこには瑪且の白濁を顔と頭に被って呆然としている朱紀がいた。 (うわ…っ、やば…)  一瞬眠気が吹っ飛ぶ。葛葉も気付いて苦笑し、朱紀に声をかけていた。 「あーあ、すごいことになってるね?」 「……」 「朱紀ー?大丈夫かい?」  葛葉が朱紀に手を伸ばして、鼻先にかかった瑪且の白濁を指先で拭ってやる。指先に付いた白濁は、なんの躊躇もせずに葛葉の口内へ消える。いつものこと過ぎて、瑪且も特に気にしなかった。 「朱紀、いつまでそうしてるんだい?シャワーでも浴びて…」 「……」 「ふっ、なるほど?」  不意に葛葉がくすりと笑った。すると、少しして朱紀の顔が下から真っ赤に染め上がっていく。今にも爆発しそうに顔を歪めて震えているが、立ち上がる気配がない。  不思議そうに瑪且が視線を向けていると、その疑問に答えるように葛葉が朱紀へ声をかけた。 「なんだ。勃っちゃったんだね?」 「っっ」 「仕方ないよ、朱紀。初めて調教を見たんだからね。まおはとても可愛いし。ほら、さっさと処理しておいで?」 「~~ッッ」  アワアワと朱紀がしていると、後ろから龍笛を片手に持った乙人が朱紀の腕を掴むが、それを勢いよく払いのけるのが見えた。 「立てるか?朱紀」 「っっ!!さ、さ、触んじゃねぇっっっ!!俺は勃っ…勃っってなんかねぇからなッッッ!!!くそマゾ瑪且がッッッ!!!」 (くそマゾって。小学生かよ)  おそらく瑪且以外も思ったであろうツッコミを、心の中で入れる。  前屈みになりながらも朱紀が立ち上がって障子戸を力任せにスパンっと開くのが聞こえ、耳に痛い。そして、最後になぜか自分へ暴言を吐き捨ててバタバタと立ち去っていく朱紀の猿の尻のような顔を最後に見て瞼が降り、葛葉の楽しそうにクスクスと笑う声を聞きながら瑪且は眠りについた。

ともだちにシェアしよう!