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煌めくルビーに魅せられて番外編 吸血鬼の執愛2

 瑞稀と付き合って、一週間が過ぎた。お互い毎日忙しくしているせいで、あれから逢っていないのが現状だ。 「瑞稀に逢いたい……」  逢えない分だけ、LINEでやり取りしているものの、瑞稀成分が圧倒的に足りない。彼の血を飲み、しっかり体内に取り込んでいるのに、それでもなお足りないと体が訴えかけてくる。  吸血衝動は大体月一でやってくるものなのに、なぜか瑞稀に関しては違うらしい。 「桜小路課長!」 「……」 「桜小路課長、よろしいでしょうか?」  瑞稀のことを考えつつ、パソコンのモニターをぼんやり眺めていたら、大きな声を出した部下が傍にいることに、やっと気づいた。 「すみません、ぼーっとしてしまって」 「ちゃんとお休みをとって、しっかり休息していただかないと、今のように平日の業務に支障が出ますよ」  ここのところ休日を返上して仕事をしてることを、部下に突っ込まれてしまった。互いの情報を共有すべく、仕事関連の殆どを知らせているからなれど、こんなふうに苦情を述べられると、ほとほと困ってしまう。 「わかりました。今週末はきちんと休みます」 「とはいえ、そこに業者の仕事が入ったら、喜んでお休みを返上するんでしょうねえ」  さらりと今後の行動を先読みされたが、上司としての意地もある。 「皆に迷惑をかけられません。週末は必ず休みますので、安心してください」  そう言ったのには理由があった。日曜日は瑞稀と一緒に過ごす約束をしている。 「桜小路課長、SAKURAパークの改修工事について、いつもの業者が午後一に電話がほしいそうです」 『いつもの業者』と呼んでいるのは、業者の正式名称が無駄に長いせいだった。実は俺が考えたあだ名で、部署の皆も賛成してくれたものだったりする。 「わかりました。電話の内容については、今日中にパソコンで皆さんに共有します」  午後一の電話を忘れないように付箋にメモし、パソコンのモニターの端に貼り付けた。午後からこなすタスクの一番上に位置させ、残りの6つを今日中に終わらせなければならない。 「それと、支店長が上から降りてきているそうです。多分、いつものチェックかと」  淡々と社内の報告をする部下のセリフに、眉根を寄せた。 「またですか。アレの相手をすることこそ、時間の無駄でしょうね」  肩を竦めながら、馬鹿にするように笑って見せると、目の前でうんと嫌な顔をされた。 「いいんですか、そんなことを言って。また口撃されますよ」 「君を含めて皆さんに被害がないのなら、喜んで人身御供になります」  腹違いの弟が支店長をしている、会社の課長が俺――吸血鬼の都合上、それが世間にバレないように、跡取りから外された。ゆえに同じ兄弟なのに、こうしてステータスの違いが出てしまう。  吸血鬼になった俺の身を案じた母親が心臓を悪くし、その三年後に父親が腹違いの弟を本宅に呼び寄せ、跡取りの教育をはじめたことで、母親は心労がたたり、帰らぬ人となった。  あの世からつらい現状の俺を見て、涙している母親の姿を想像したら、このままではいけないと奮起した。吸血鬼ライフを楽しいものにしようと、必死になって足掻く俺自身は、はたから見たら滑稽かもしれないが、それでも――。 (瑞稀……)  君がいれば、どんなことでも頑張れる。君が笑ってくれるのなら、そこら辺の無機物にあだ名をたくさんつけて、もっともっと笑わせようか。 「ありがとう、山下さん。支店長対策を考えながら、仕事に励みます」  満面の笑みを浮かべる俺を見た部下は、安心した様子でデスクから遠のいた。ふたたび気合いを入れ直して、やりかけの仕事に手をつける。  瑞稀に逢える日をちゃっかり指折り数えながらしていたのは、絶対にナイショだ。

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