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 レフィーナは白いローブをたくし上げ、魔王を庇うように勇者の前に回り込み、両手を広げ、勇者の行く手を阻んだ。 「勇者様! やはり、そういうのは良くないと言ったではありませんか!」 「あ? ――うっせぇな。てめぇは俺らの玩具なんだから、口答えするんじゃねぇ!」 「で、でも! 間違って――きゃぁっ!」  レフィーナは勇者を説得しようとしたものの、勇者の神経を逆撫でした。勇者は舌打ちすると、説得中のレフィーナを力いっぱい平手打ちした。レフィーナは反動で床に叩きつけられるように倒れ、真っ赤に腫れ上がった頬を擦りながら、額を床に擦り付けて涙ながら許しを乞った。 「お、お願いですから……。ほ、本来の目的を忘れないで……ください」 「本来の目的? あぁ、そんなものがあったな。……そうだな。じゃぁ、お前がやれよ。聖女様」 「えっ?」  勇者は同行者からあるものを受け取ると、土下座するレフィーナを見下し、レフィーナの前にあるものを投げ落とした。ガシャンと乾いた金属音が鳴った。レフィーナは恐る恐る頭を上げる。そして、それを見た瞬間、レフィーナの顔色は一気に悪くなり、体を震わせながら、後ずさりした。 「なっ、何故、ティルヴィングがあるんですか! あれだけ宝物庫から出してはいけないと、警告したのに!」 「えっ、だって、面白そうな剣じゃん? 『一度鞘から抜くと、誰かを殺すまで鞘に戻せない』、『持ち主の願いを叶えるが、代償として破滅する』とかさ。最高だと思わない?」  勇者は不適な笑みを浮かべ、聖女の背後に回ると、聖女の耳元に顔を埋め、生温かい湿った吐息を吹き掛け、両肩から手を滑らすように、聖女の手首に両手を添えた。そして、聖女の手首を力強く掴むと、ティルヴィングの鞘を抜かせようとした。 「――っ! 嫌っ! 嫌です! おっ、おやめください!」 「あはははっ! 見ろよ、こいつ。ベッドの上で啼くような声出してるよ。そんなに嬉しいんだ? ねぇ? 早く終わらせて、可愛がってあげるからさ。――早く抜けって言ってんだろ!?」  聖女は咄嗟に拳を握った。しかし、勇者もそこまで馬鹿ではなく、その震える握り拳と床を駆使して、鞘から剣を抜いた。 「あーぁ、抜けちゃったね」 「――い、嫌ぁぁぁっ!」  ティルヴィングは聖女の握り拳の中に移動した。聖女は悲鳴を上げ、ティルヴィングを放り投げた。カランカランと金属音が響いたと思えば、瞬間移動をするように、再び聖女の手元に戻って来た。 「ほら、大魔王を早く殺せよ。少しは役に立てよ、聖女様」  勇者たちは聖女を嘲笑った。聖女はゆっくりと立ち上がり、床に落ちているティルヴィングを手にし、涙を腕で拭いながら、大魔王に剣を構えた。 「本当に愚かだな。自分の手を汚さず、聖女にやらせるとはな」  大魔王は憐れむように聖女を見つめた。勇者たちに急かされ、聖女はゆっくりと大魔王がいる玉座の前まで行った。

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