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「これはどういう事! 魔術師も勇者様とグルだったって事? こんなもので私を閉じ込めて、どうする気よ!」  レフィーナは眉間に皺を寄せ、割れる事のない結晶壁を叩き続け、勇者に訴え続けた。その訴えに苛立ったのか、先程まで奇妙な笑みを浮かべていた勇者が豹変したように、真顔になり、魔術師を背中から剣で一突きした。 「どいつもこいつも……うるせぇな!」  レフィーナは口を両手で覆い、息を呑んだ。魔術師が膝から崩れ落ち、床に倒れるほんの数秒の間に、勇者は表情を一切変えず、他の仲間たちにも剣を振りかざした。勇者の周りは血の海となり、レフィーナはあまりの惨劇に足がすくみ、座り込んだ。 「あ、貴方、なに、やって、るの? な、仲間を、共に戦ってきた仲間、でしょ? ――貴方! 正気なの?」 「あはははっ! 俺は至って正気だよ? だって、俺は勇者様だから。こいつらと一緒にされるのはごめんだね。それよりもさ、今の、見た? こいつら、あんな無様な顔するんだね」 「あ、貴方なんて……勇者様なんかじゃない! 私は認めない!」 「へぇ、聖女様ってそんな顔するんだね。あははっ、絶望する顔も憤怒する顔も絶頂する顔も……本当にそそる。今ここで無様に死んでいく魔王の目の前で犯してやりたいよ。クククッ……」  勇者は剣についた血を振り払い、納刀する。そして、自分の顔に着いた返り血を手で拭い、その手を嬉しそうに舐めながら、レフィーナと魔王が閉じ込められている結晶壁へ歩み寄った。 「魔王はいつか死ぬ。いや、絶対に死ぬね。そして、何も出来ない聖女はその無様な死に様を見て、嘆き悲しむ。そして、後を追うように、自らも息絶えていく。――そういうのをさ、想像するだけで俺は物凄く興奮して、今にも達してしまいそうだ!」 「あっ、貴方はそんな人じゃなかったはず! 国王や民がこの事を知ったら、さぞガッカリするでしょうね」 「ガッカリ? それはないよ。だって、本当の俺を知るのは……ここに閉じ込められたお前らだけだからな。国王や民は『勇者は勇敢だった。仲間の死を無駄にはしなかった』って言うだろうね」 「がはっ……。勇者よ、貴様はいつか地獄に堕ちるぞ」 「魔王ダルタロス、まだ生きていたのね!」 「なぁんだ、まだ生きていたんだ。まっ、時間の問題か。正直、ティルヴィングって呪いの割には、殺傷能力低いからねぇ。でも、じわじわ弱っていくのを見るのも最高なんだけどさ。でも、俺は王都へ帰還しなきゃ」 「――ま、待ちなさいよ! どうなっても知らないわよ!」 「お気遣い感謝致します、聖女様。――早くくたばって下さい」  勇者は胸に手を当て、悪意のある満面の笑みを浮かべ、お辞儀した。そして、マントを翻し、魔王城を後にした。

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