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魔王城は静寂に包まれ、レフィーナは絶望の淵に立たされた。
その時、レフィーナの背後でドサッと倒れる音がし、振り向くと、傷口に手を当て、仰向けで細い息をする魔王の姿だった。レフィーナは魔王に駆け寄ると、傷口に両手をかざし、治癒魔法を詠唱した。
「今、傷を治しますから――」
「魔力の、……無駄だ」
レフィーナの手を魔王が握り、詠唱をやめさせた。魔王に握られた手の力はとても弱く、添えているに近かった。
「でも! このままだと勇者の思い通りになってしまいます! 何としてでも止めないと……」
「無理だ。あの勇者は頭がきれる。お前がたとえ戻ったとしても、良い事は起きない。諦めて、我の死に様を見届けろ」
魔王は鼻で笑うと、レフィーナから手を離した。魔王の傷口からは血液がじわじわと滲み出てきており、止血される気配は全くない。そして、今にも息の根が止まりそうな感じがある。レフィーナは涙を流し、泣き崩れた。
「わ、私は……永き争いを終わらせて、種族関係なく、穏やかで平和な世界にしたかったのに……」
「ゴホゴホッ……。それはお前の願いか?」
「そうです。でも、もう実現しませんが――」
「いや、一つだけ可能性がある」
レフィーナは魔王の言葉に酷く驚き、か細い声で話す魔王の手を取り、魔王の顔に耳を近付けた。
「ティルヴィングの剣で我を斬ったのはお前だろ? 願いが叶うのは勇者じゃない、お前だ」
「で、でも、どうすれば……」
「――我と契りを交わせ」
「契り? それとどう関係が……」
「光と闇の対極関係にあるお前と我との間で契約を交わし、お前は願いを叶える。そして、闇の力を持つ破滅を我の体内に流し込めばいいだけだ」
「でも、破滅を流し込んだら、貴方はどうなってしまうのですか?」
「それは……、今の状態だと受け止めきれずに絶命するだけだ。その衝撃でこの結晶壁も吹き飛ぶだろう。お前は防御魔法が使えるか?」
「つ、使えますけど……。魔族を統治する貴方が絶命してしまっては、本来の目的である他種族共存が果たせません! ど、どうしたらいいのでしょう?」
レフィーナは頭をフル回転させ、ティルヴィングの効果や魔王の言葉を参考にし、最適解を求めた。その時、幼少期に読んだ童話をふと思い出した。
「……私なりに最適解を見つけました」
「そうか。お前の願いが叶うといいな。我もその場に居合わせたかったな……。では、嫌だろうが、我と契りを交わせ」
魔王はゆっくりと目を閉じた。レフィーナは息を呑み、魔王の冷たく乾いた唇に口づけをした。魔王の首には契りを証明する金の首輪が着けられた。そして、それを見届けると、レフィーナは胸に手を当て、呼吸を整えた。
「私の答えは、――これです!」
レフィーナは魔王の手を握り締め、祈りを捧げた。
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