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 レフィーナは自分自身の幸福ではなく、皆分け隔てなく幸福が訪れるようにとを心の中で強く思った。  レフィーナの願いが届いたのか、薄暗い玉座の間の天井から白金に輝く粒子と、それに相反する漆黒に黒光りする粒子がふわふわと泡雪のように降り注いだ。二人を閉じ込める結晶壁にその二つの光が当たると、結晶壁は効力を失い、音もなく消滅した。閉塞感から解放されたレフィーナは天井を見上げ、その不思議な光景に目を奪われた。 「なに、これ? これは……どういった現象なのでしょうか?」 「…………」  レフィーナは魔王に問いかけたが、先程よりも冷たく、返答が無かった。レフィーナは静かに涙を流し、魔王の冷たい体を抱き締めた。 「……お願いだから、死なないで。貴方は極悪非道で心無き者だと教会で教わりました。――でも! 貴方は私を目の前にしても、私を殺しはしなかった。何故ですか? ねぇ、答えてくださいよ! 何故なんですか!」  レフィーナは魔王の体を揺さぶり、泣きながら訴えた。静まり返った玉座の間にレフィーナの悲痛な叫びが響き渡る。 「ティルヴィングの伝承も全て嘘よ。だって、こんなに願っても何も変わっていない。破滅だって……訪れていない。ティルヴィングは所詮、ただの古びた剣なのよ! こんなよく分からないものまで降らせて……。私は騙されないわよ!」  失望したレフィーナは何の変化がない状況に、徐々に苛立ちを感じ、消失したティルヴィングの気配を鋭い目で探した。その時、天井から降り注いでいた二つの光はその場に留まった。レフィーナが辺りを見渡すと、逆再生するように、二つの光は天井へ向かうように戻っていった。  そして、二つの光は空中でそれぞれ凝集し、白金に輝く丸みを帯びた縦長い逆三角形の盾と漆黒の禍々しい長剣へと形を変えた。 「盾と剣……。一体、これから何が起こるの?」  白金にひと際輝く盾は、二人の上をぐるりと一周すると、弾けるように、温かい白金の泡雪を降らした。そうすると、魔王から流れ出た血液が魔王の傷口へと吸い込まれ、斜めに大きく切り裂かれた痛々しい傷跡が塞がった。 「…………ゴッホゴホッ。我は死んだはずだが」 「魔王、生き返ったのね!」  魔王が息を吹き返したことに、レフィーナは安堵の表情を浮かべる。そして、ゆっくりと起き上がる魔王の背中に手を添え、微力ながら起き上がる手伝いをした。 「そ、それより……ここは何処だ? 見渡す限り、草原が広がっているだけだが……」 「えっ、ここは魔王城の、はず。……えっ、どういうこと?」 「待て。今、調べてみる」  魔王はそう言うと、立ち上がり、特級魔法である『俯瞰』を使い、辺り一帯を調べ始めた。魔王曰く、今いる広大な草原は魔王城の先にある未開拓地のはるか上空にあり、さらに草原は上空を浮遊し続けているという。 「聖女がどんな願いをしたのか分からないが、我の予測だと、新たな都市、文明――いわば、新世界を創造しろと言ったところか?」 「魔王、凄いですよ! ここから下の世界が見下ろせます!」 「はぁ……、我の話を聞いているのか? あまりはしゃぐな。私は病み上がりだぞ」  レフィーナは魔王の推論を聞きもせず、草原の端へ行き、崖下に見える元いた世界を覗く様に四つん這いになって眺めた。そして、レフィーナは急に立ち上がり、満面の笑みで魔王を見つめた。

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