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「あの、実は本番が……出来ないんです」 「本番って? ……あーっ、まぐわいか」 「はい。前戯などは大丈夫なんですが、どうしてもあそこを触られると、急に怖くなって」 「まっ、俺の頬を思いっきり叩く位だからな。――って、冗談だよ。で、何かあったの?」 「……初めてお相手して下さった方に酷い事をされてから、本番が怖くて。って、メフィスト様に愚痴っては男娼失格ですね」  今にも泣きそうな顔をしながらも、苦笑いする苺に、メフィストは微笑みかけた。 「そっか。それはしょうがねぇ。合う合わないってのもあるしな。なんかそういうことを考えずに生きたいよね」 「確かにそうですね。苺もそうしたいです」 「俺だって四天王なんか辞めちまって、のんびり暮らしたいよ」 「四天王というのは大変なものなのですか?」  メフィストは深くため息をつき、布団の上に仰向けになって寝っ転がった。メフィストの頭元に苺が来たと思ったら、正座をして、心配そうな顔で顔色を窺っていた。 「大変も何も……。魔王が居なくなってから、魔界は派閥争いが増して、『俺が次期魔王だぁ』とかほざく奴ばっかで、魔物も騒がしいし。俺らはそういうの嫌いだからさ。あっ、俺らっていうのは俺と俺の親友の事な」 「先程おっしゃっていた本好きのお方ですか?」 「そそ。俺らはのんびり暮らしたいんだよ。争いごとはもう御免だね。で、旧魔王城を散策してたら、ここに通じる扉を見つけて、やって来たってとこだ。ここは平和だし、苺ちゃんは可愛いし、最高なんだけどなぁ」 「い、苺はべ、別に可愛くはないです! 苺以外に良い相手役なら沢山います」  メフィストがチラッと苺を見上げると、苺は顔を真っ赤にし、恥ずかしがっていた。メフィストはニヤつきながら、苺の頬を指で突いた。 「顔赤くしちゃって。本当に可愛いなぁ」 「誂わないでください。でも、本当に苺以外の者は人気もありますし、……その、殿方を体をもって満足させる事が出来ますし」 「へぇー。苺ちゃんの中では誰がおすすめなの?」 「そうですね。……やはり、月下お兄様ですかね。とてもお綺麗で、苺の憧れです」 「月下……か。今度、指名しようかな? 苺ちゃんが言うからには美人なんだろうなぁ」  メフィストは期待に膨らみ、思わず顔を緩ませた。苺がその様子を見て、口に手を当て、小さく笑った。  そして、メフィストは良いことを思いつき、急に飛び起きる。 「ど、どうされたのですか? 急に飛び起きて」 「良い事思いついた。俺の親友がさ――」  メフィストは苺を手招きすると、苺の耳元で自分の思いついた事をコソコソと話した。苺はその話を聞いて、思わず驚き、目を見開き、体を引いた。 「――そ、そんな! それは別に苺じゃなくても良いのではないでしょうか? 苺にそんな大役つとまりません!」 「大丈夫だって。見た目は怖いけど、良い奴だからさ。自信を持たせてやってほしいんだよ」 「で、でも! ……本当によろしいのですか? ご友人様にはどう説明されるんですか?」 「んなこと、気にしなくても大丈夫だってぇ」  メフィストは不安な顔をする苺の肩を組み、満面の笑みを浮かべた。その眩しい程の笑顔に、苺は顔を引き攣らせて、笑い返してきた。

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