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「月下、苺! 仕事だよ! 離れを使いな。月下はいつもの離れでいいだろ?」 「はい、畏まりました」 「女将、ありがとうございます」  二人が出てくると、メフィストは鼻の下を伸ばし、ニヤニヤしながら、手を振っていた。 「苺ちゃん、今日も可愛いね」 「ありがとうございます。今日はそちらの方ですか? なんだかお疲れのご様子……」 「今日は悩み聞いたり、マッサージをしてあげてくれ」 「はい、畏まりました」 「で、俺は月下だな」 「メフィスト様、本日はよろしくお願いいたします。メフィスト様が満足出来るよう、月下も一生懸命ご奉仕させていただきます」  月下と苺はストラスたちに向かって、深々と頭を下げた。移動に関しては、メフィストが気を利かせてくれ、苺の離れに連れて行ってくれることになった。  行く途中で、女将に引き止められ、時間を聞かれたが、ゆっくりしたいのもあり、四時間にした。そう告げると、女将は後でお釣りを返すと丁寧に言われた。  そうこうしているうちに、苺の離れに着き、メフィストはストラスを部屋に投げ入れると、月下と肩を組み、楽しく会話をしながら、奥にある月下専用の離れへ消えていった。 「痛たたたっ、随分と雑に扱うな、あいつは。で、ここが茶屋の部屋か。見慣れない家具ばかりだな」  ストラスは起き上がると、胡座をかき、部屋の中を見渡した。そして、部屋へ入ってきた方を見ると、苺が襖から顔を半分出し、こちらを見つめていた。苺は体を縮こませ、少し震えていた。明らかに距離を取られているようだ。 「……お前が苺か?」 「ひぃ! は、はい。い、苺でごじゃいます」 「私が怖いか?」 「へっ! いえ、そんな……」 「ふぅ……、私はよく怖いと言われるが、危害を加えるつもりはない。喋り方もいつもこんな感じだ。ここ最近、調べ物をしていて、つい夢中になって、寝不足で疲れているだけだ。……怖がらせてしまい、申し訳ない」  ストラスは苺に土下座をした。苺はひどく驚き、慌てた様子でストラスのそばへ駆け寄ってくるなり、正座をし、頭を上げるように言ってきた。 「そんな! 苺が悪いんです。どんな方がいらっしゃっても、同じ対応をすべきだと。メフィスト様からお伺いしておりましたが、ストラス様は見た目だけ怖いが、とても素敵な殿方とお聞きしました。苺の方こそ申し訳ありませんでした」 「怖いっていうのは当たりなんだな」 「あっ! も、申し訳ありません!」  ストラスは鼻で笑い、苺をふと見た。少しおどおどしつつも、チラチラと上目遣いで見てくる苺は愛らしかった。ストラスはドキッとし、目を泳がし、顔を逸らした。 「ご、ご指名していただいたのに、無礼な態度をとってしまい、大変申し訳ありません。ど、どうかお許しを……」  苺は今にも泣きそうな顔で、土下座をしてきた。ストラスは苺に頭を上げるように伝えた。  頭を上げ、潤んだ目で見つめてくる苺に再びドキッとした。ストラスは顔が緩みそうになり、一度咳払いをした。 「――ゴホンッ。す、すまん。過度な謝罪は必要無い。ただ、なんだ。……その、メフィストから話は聞いていたが、苺が想像以上にとても愛らしくて、……は、恥ずかしくて、正直、目が合わせられないというか。すまん」 「へ? えっ! そんな愛らしいだなんて。滅相もございません!」  苺は顔を真っ赤にし、顔の前で両手を振り、俯いた。そして、苺は胸に手を当て、一度深呼吸をすると、ストラスに茶屋の説明をし始めた。ストラスは真剣な表情で、苺の話を聞いた。

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