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ストラスは湯船から立ち上がると、苺に手を差し伸べた。苺は軽く頭を下げると、ストラスの手を取り、湯船に浸かった。
ストラスは間一つ分空けて入る苺の体を引き寄せ、自分の股の間に座らされた。そして、ストラスは後ろから苺の体を包み込むように抱き締めた。
「お前の体が冷たくなっている。長い時間、裸のままで外にいさせてしまって、申し訳ない」
「…………い、いえ」
ストラスは黙ったまま、冷たく濡れた苺の髪に頬を寄せる。息を吸っては吐いて……。メフィストみたいに気が利いたことは出来ないだろう。ストラスが黙っていると、苺は髪をいじりながら、悩ましい顔をしていた。
「なんだ? そんなに考え込んで。こういう風にされるのが好きではなかったか?」
ストラスは苺の耳元で囁くと、苺は体をビクッとさせ、慌てて否定した。
「いえ! そういう事ではありません! すみません、ストラス様が苺に配慮してくださったのに、一人で考え事をしてしまって……」
「いや、構わない。私もよく一人で考え事をする事もある。メフィストが目の前にいても、お構いなしにさ」
「ふふっ、そうなんですね。ストラス様は本当にメフィスト様と仲がよろしいんですね」
「そういう風に見えるか? 仲が良いというか、お互いの事を信頼しているだけに過ぎないぞ。……さて、長湯をし過ぎるのも良くないと本に書いてあった。苺は体の方は温まったか?」
「はい、ストラス様のお陰で温まりました。では、お体を拭かせて頂くのと、お着替えをお手伝いさせて頂きます」
「いや、自分で出来るから、大丈夫だ。私の体を拭いている間に、湯冷めなどしたら、苺が風邪を引いてしまう」
ストラスは湯船から出ると、脱衣所へそそくさと行った。苺も後を追うように、湯船から上がり、脱衣所でストラスの体を拭こうとタイミングを見計らっていた。ストラスはため息をつき、苺にタオルを羽織らせた。しかし、苺はタオルを掴み、俯いていた。
「大丈夫か? 浮かない顔をして……。どこか調子でも悪いのか? それとも、のぼせてしまったか? それとも、湯冷めしてしまったか?」
「――あっ、すみません。少しぼぉーっとしてました。……それで、ストラス様は浴衣の着方はご存知ですか? もし、あれでしたら、お手伝いさせて頂きますが」
「あぁ、そうだな。流石に浴衣という服は今まで着た事が無いからな。頼んでもいいか?」
「はい! 畏まりました」
苺の表情が明るくなった気がした。しかし、タオルを自分の体に巻き付け、竹籠からストラスの浴衣を取り出そうと手を伸ばしていた。
ストラスは咄嗟にその腕を掴んだ。苺は困惑した様子で、こちらを窺った。
「そんなタオルを巻いた格好でいると、風邪を引く。苺が服を先に着ろ」
「いえ、大丈夫です。お気になさらないで下さい。先にストラス様が浴衣を――」
「駄目だ。魔族は早々風邪など引かないし、体温調整も自分で出来る。その反面、人間は体温調整が適切に出来ず、風邪を引くと文献に書いてあった。だから、先に着ろ」
念には念を、ではないが、ストラスは苺が先に浴衣を着るのを見守った。
「ちゃんと着れたか?」
「はい、着れました。ストラス様の着付けをさせて頂きますね」
ストラスは苺が必死に背を伸ばして、着せようとしているのに気付き、無言で膝を曲げて、苺が着付け出来るように調整した。
そして、浴衣に着替えた二人は部屋へ戻った。苺は隣の部屋の襖を開け、ストラスを案内した。和室に布団が二組隣り合うように敷かれており、間接照明のオレンジ色の明かりが壁に反射し、柔らかな光で部屋が照らされていた。
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