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「お布団の上でお寛ぎください。ストラス様はお嫌いな香りなどはございますか?」 「あぁ、適当に座らせてもらう。嫌いな香りか? いや、特にない」 「畏まりました。では、お香を焚かせて頂きます」  苺は床の間にある香炉蓋を開け、中にある円錐型のお香に火をつけた。次第に、お香から立ちのぼる煙とともに、オリエンタル系に少しスパイスが効いたような深みのある香りが漂ってきた。 「とても不思議な香りだ。とても心地良い」 「これは、白檀・イランイラン・丁字などを調合したものになります。苺もとても好きです。いつもは焚く事が無いんですが、ストラス様はお疲れのご様子ですし、本日は苺がオイルマッサージをさせて頂きます」 「すまない。苺に気を遣わせてしまったな」 「とんでもありません! 苺の仕事は皆様に極上のひとときをご提供し、お客様を満足させるためにご奉仕する事ですから。では、今、準備しますので、お待ちください」  苺は新しいタオルを数枚持ってきて、布団の上に敷いた。そして、戸棚から小瓶を取り出した。  ストラスはタオルが敷かれた布団の上へ誘導され、浴衣を脱ぐように言われ、苺に言われた通りにうつ伏せとなった。 「途中で仰向けに変わる際に、お声をかけさせていただきますが、施術中などに何かございましたら、遠慮なさらず仰ってください。あと、眠られても構いませんので、どうぞリラックスされてください」 「あぁ、助かる。このようなオイルマッサージとやらは初めてやられるから、少し緊張するが、苺がするのなら、安心できる」 「そう言って頂けて、嬉しいです。では、背中からマッサージしていきますね」  苺が小さな手にオイルを垂らし、手を合わせて温めながら、伸ばす。そして、声かけをしながら、ストラスの背中に塗っていく。  ストラスは苺の適度な圧とゆったりとしたストロークで徐々に体の緊張が解され、ウトウトし始めた。  いつの間にか寝落ちしていたのか、ぼんやりとした感覚の中で、苺の優しい声が聞こえる。それと同時に、体の軽さを実感した。 「――ラス様、ストラス様。次は仰向けになっていただいてもよろしいですか?」 「……ん? あぁ、すまん。あまりの気持ち良さに寝てしまっていた。次は仰向けだな」  ストラスが仰向けになると、目元をタオルで覆われ、股の上にタオルをかけられた。そして、上半身のマッサージが始まった。  ストラスは寝落ちする前に、メフィストから聞いていたことを尋ねることにした。 「なぁ、苺」 「はい、なんでしょうか?」 「メフィスト曰く、苺は男の悩みを何でも解決してしまう極上の男娼と聞いたが、それは本当か?」  ストラスは目元のタオルを取り、腕のマッサージ中の苺を見て、質問した。苺は突然の質問に酷く驚いた様子で、動かしていた手を止める。 「えっ! ――す、すみません。大きな声を出してしまいました」 「すまん、唐突な質問をしてしまって」 「いいえ、大丈夫です。メフィスト様がそのような事を仰っていたんですか?」 「あぁ。違うのか?」  苺はマッサージの手を止め、ストラスの腕を静かに置き、姿勢を正した。しかし、苺は頬を赤くし、体をモジモジとさせ、目が泳いでいた。  ストラスは何故、苺が挙動不審であるのかが分からなかった。そして、苺は言葉を詰まらせながら、逆に質問をしてきた。 「あ、あの……。苺もメフィスト様から聞いたのですが。ストラス様は魔界では種族関係なく多くの方々を……その、あの……、夜のお相手をされていて、よ、夜の帝王と呼ばれてらっしゃっると――」  次は、ストラスが酷く驚き、目を見開いた。そして、目元のタオルを投げ捨て、慌てて起き上がった。苺はストラスの取り乱した様子を見て、動揺した様子だった。 「夜の帝王だと! あいつがそんな事を言っていたのか?」

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