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「苺、私はメフィスト様にのど飴をご用意してきますので、お二方を玄関までお連れして、冷たい飲み物でも出して差し上げなさい」
「は、はい。畏まりました」
月下は二人に頭を下げると、玄関口手前の階段を上がっていった。ストラスはメフィストを連れて、玄関先にある待合場の椅子に腰掛けた。苺は急いで飲み物の準備をしに奥の部屋に消えていった。
女将はメフィストの疲れ果てた顔を見て、口に手を当て、含み笑いをした。
「あらあら、メフィスト様は月下のおもてなしに耐えられたのですね」
「女将、それはどういう事なんだ?」
ストラスが女将に問うと、急に咳払いをし、愛想笑いをした。ストラスは理解出来ず、メフィストに何があったかを聞いた。
「おい、月下と何があったんだ?」
「……い、いや、とにかく――」
メフィストが気怠そうに話そうとした瞬間、女将が話を遮るように、慌てて割り込んできた。
「あぁっ、ストラス様。他の方がどんなおもてなしを受けたかは口外禁止なのはこの界隈では常識ですよ。――ささっ、苺。お二方に飲み物を出して差し上げなさい」
女将が話していると、タイミングよく、奥の部屋から苺が飲み物を運んできた。ストラスは煮えきらないまま、苺から差し出された陶器の湯飲みを受け取った。
「この緑色の液体はなんだ? 毒か?」
「毒なんかお出ししませんよ。これは緑茶と言う飲み物です。少し甘みと渋みがありますが、とても飲みやすいものです」
「ほう、緑茶と言う飲み物か。ほら、メフィストも飲め。喉が枯れているのも、喉が乾燥しているからだろう」
メフィストは湯飲みを受け取ると、一気に飲み、深いため息をついた。ストラスも飲んだが、思ったよりも苦味が強く、眉間に皺を寄せた。それを見て、苺は小さく笑った。
「ぐっ……。苦味というか、渋味というか。しかし、解毒剤よりかははるかにマシだ」
「ふふっ。初めて飲む方は皆様、そのような顔をされます。でも、皆様、お帰りになる際はこれを飲まないと駄目だっておっしゃいます」
「時期に慣れるものなのだろう……」
「皆様、お待たせいたしました。メフィスト様、これが先程お伝えしたのど飴でございます」
階段から降りてきた月下が微笑みながら、のど飴の入った巾着袋をメフィストに手渡した。そして、メフィストの耳元でコソコソと耳打ちをしていた。
ストラスは苺と談笑していたため、会話内容は分からなかったが、メフィストをふと見ると、耳まで真っ赤にし、首を縦に振っていた。
「お二方は次の予約はされますか?」
メフィストとの会話が終わると、月下がニッコリとした表情でストラス達に尋ねた。
ストラスは少し考えたが、メフィストは照れた顔を腕で隠し、即答した。
「――また、ら、来週の同じ時間で」
「おい、お前。来週もここへ来るつもりか? 金は大丈夫なのか?」
「金なら沢山ある。どうせ貯め込んでも仕方ない。お前は俺以上に貯め込んでるだろ?」
「まぁ、たしかにそうだが……。しかし、私は書物を購入する資金だったりと――」
「という訳で、来週の同じ時間で俺とコイツの予約をお願いしまーす!」
「はぁ? 待て!」
メフィストは女将に二人分の予約を依頼した。ストラスは慌てて取り消すように頼もうとしたが、メフィストにまんまと丸め込まれた。
「では、お二人様のご予約を承りました。今後とも当店をご贔屓に」
女将は嬉しそうに帳簿へ二人の予約を書き記した。ストラスはやや納得いかない様子だったが、メフィストに「お前のためだ」と何度も言い聞かされた。
そして、メフィストが席を立った際に、よろけていたため、ストラスはメフィストに手を貸そうとしたが、「大丈夫だ」と断られた。ストラスはメフィストのおぼつかない足取りを心配したが、本人がそういうのだから、問題ないだろうと判断し、共に店を出た。苺と月下は玄関先まで丁寧に見送りをしてくれた。
二人はゆっくりとした足取りで天空都市の門まで向かった。その間、メフィストは何度もため息をつき、夕日を見ながら、満たされたような顔をしていた。
「メフィスト。悪いが、その緩みきった顔とため息はどうにかならないのか? 連れ添っている私の身にもなってくれ。……それにしても、お前は一体、月下に何をされたんだ?」
「――あ? あーっ、それは女将が言ってたように、いくらお前でも言えねぇよ。ただのおもてなしだよ。おもてなし」
「そうか。興味本位で聞いてしまった。すまない」
「お前だって、苺ちゃんにどんなおもてなしをされて、最終的に勃ったかどうかを聞かれたら嫌だろ?」
「確かにそれは一理ある。だが、お前に相談したい事がある。実はそれに関してだな――」
「待て、待て! ここでじゃなく、お前の城で聞いてやるよ。お前の場合、人目を気にせず、突拍子もない発言をしそうだからな」
二人は天空都市を後にし、ストラスの城へ向かった。いつもの書庫へ向かい、二人は向かい合って座った。
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