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「で、どうだったの? 苺ちゃんは可愛かっただろ?」 「まぁ、お前は人間を見る目があるから、その点は問題なかったが」 「が?」 「いや、あのだな……」  ストラスは急に目を泳がせ、頬を掻いた。メフィストはストラスの様子で察したのか、顎に手を当て、ニヤリと口角を上げた。 「ははぁん。お前、勃たなかったんだなぁ。あの子のどこに不満だ? やっぱり、女じゃないと駄目か?」 「いや、そういうのではない! 苺は前にお前の土産で食べたいちご飴のように艷やかで、上品で、食べたら、甘くて柔らかくて、無くなってしまいそうで」 「待て、待て! お前は詩集でも出したいのか?」  ストラスはメフィストに合わせたつもりが、話の途中で遮られた。メフィストは額に手を当て、深くため息をついた。ストラスはキョトンとした顔でメフィストを見た。 「回りくどい言い方じゃなくて、俺にも分かるように説明してくれ」 「そうだな。苺に体をマッサージしてもらって、談笑した位だ」 「はぁっ?! それだけか? それだけでなんであんな比喩が出てくるんだよ」 「そもそもお前が私と苺に変な情報を流し込んだのが悪いのだろう?」  メフィストはその事を思い出したのか、苦笑いしながら、平謝りしてきた。ストラスはため息をつくと、話を続けた。 「とりあえず互いに抱えている問題を解決しようと思い、自己研鑽に努める事にした」 「あぁ、……そうですか。で、どうだった? 苺ちゃんの体を見たり、体に触れたりして、勃ったのか?」  メフィストは目を輝かせ、少し食い気味に尋ねてきた。ストラスは顎に手を当て、考え込んだ。少しの沈黙の後、ストラスは口を開いた。 「いや、勃たなかった」 「はっ? ……お前の股間に付いてんのは飾りか? 期待した俺が馬鹿だったわ」  メフィストはがっかりし、呆れ声を出し、席に座った。そして、頬杖をつき、冷ややかな目でストラスを見た。 「勃たなかったのは結果だ。なんと表現すれば良いのか分からないが、……結論から言うと、苺はとても素直で良い子だった」  ストラスはその時の様子を思い出し、顔を緩ませ、鼻で笑った。メフィストはその表情を見て、顔を引き攣らせ、苦笑いした。 「そ、それは良かったな。……まぁ、何度か通えば、いつか治るんじゃね? お前は深く考え過ぎなんだよ。もっとリラックスして、頭ん中を空っぽにすりゃいいのに」 「私は考え過ぎなのか?」 「そうだよ、魔王様にも言われてなかったか? 『考え過ぎ』だって。――んじゃ、また来週迎えに来るからな」  考え込むストラスを放って、メフィストは城を後にした。   メフィストが帰り、静まり返った書庫をストラスはぼんやりと眺めた。 「……『何事においても、熟考すべき。博識高く在るべきだ』と亡き父は言っていたが、本当にそうなのだろうか?」  ストラスは椅子から立ち上がると、再び調べ物を始めた。ストラスは一度集中してしまうと、飲まず食わずで全ての時間を費やす。  ストラスから餌も貰えず、腹を空かせたオルトロスがストラスのそばにやってきて、餌を強請った。 「オルトロスか……。すまん、つい集中してしまった。今、お前の分の食事を用意する」  ストラスは手に持っていた本を棚に戻すと、オルトロスの頭を撫でた。そして、食堂へ行き、既製品のペットフードを出した。オルトロスはいつもと違う食事に恐る恐るニオイを嗅いでいた。 「この前、天空都市で買ったものだ。毒など入っていない」  ストラスはオルトロスが警戒するのも分からなくもないと思っていたが、その心配をよそに、オルトロスは夢中になって、食べ始めた。 「美味しいか? それなら安心した。また今度買ってこよう」  オルトロスは尻尾を振り、嬉しそうに吠えた。ストラスはコーヒーを淹れ、在り合わせのもので食事を作った。ストラスは食事を摂る時も寝る前も本を片時も離さず、調べ物に没頭した。  結局、自分の求めている答えが見つからず、また茶屋へ行く日が訪れた。ストラスはそんな事も忘れ、いつものようにコーヒーを飲みながら、書庫で調べ物をした。 「お前、また本を読み漁ってたのか?」 「……あぁ、メフィストか。どうした?」  ストラスは迎えに来たメフィストの方を振り返った。メフィストはストラスの顔を見るなり、酷く驚いた。ストラスの顔は少し血色が悪く、頬がこけて、目の下にクマが出来ていたのだ。 「おいおい! どうしたんだよ、その顔。先週よりも酷いぞ」 「そうか?」  ストラスは顔を触りながら、首を傾げた。そして、ストラスはメフィストに急かされ、支度をした。ストラスは支度をしている最中、ふと姿鏡に目をやると、メフィストに言われた通り、我ながら酷い顔をしているなと思いながら、ゆっくりと頬を触った。 「はぁ……、確かに酷いな、これは。しかし、予約をキャンセルするのは店に迷惑がかかってしまうし、何より苺に迷惑がかかる。……苺に要らぬ心配をさせてしまうかもしれないが、仕方ない。行くか」  ストラスは新しい服に着替え、メフィストの元へ向かった。  メフィストはようやく出てきたストラスを呆れた顔で見て、何も言わずにそそくさと旧魔王城へ向かった。そして、いつもの扉を開け、天空都市へ向かい、茶屋の暖簾をくぐった。

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