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苺は緊張しているのか、胸に手を当て、数回深呼吸をした後、ゆっくりと浴衣を脱いだ。そして、ストラスと目がなるべく合わないようにして、布団の近くに正座をすると、再び頭を下げ、顔を背けながら、布団に入った。
「……し、失礼いたします」
「…………」
「お時間になりましたら、お声をかけますので――」
「――体が冷える」
「はい?」
「だから、体が冷えると言っているんだ」
苺は布団に入ったものの、ストラスに背を向け、自分の体を掛け物から半分出た状態で布団の隅にいた。一向に近付いても来ない苺に、ストラスは痺れを切らし、少し呆れた口調で言い、苺の体を自分の方へ引き寄せた。
「あ、あの! 苺はまだ体を清めていませんので……」
「だから、どうした?」
「『だから、どうした?』ではなくて、その、ストラス様の体が汚れてしまいます」
苺がストラスの体から離れようと少し抵抗してきた。しかし、もがけばもがく程、ストラスに強く抱き締められ、ストラスの懐から出ることが出来なかった。
「汚れはしないだろう。現に、苺の体からは石鹸と香水の新鮮な香りがする」
「そ、それは身だしなみであって……」
「なんだ? では、苺が風呂から出るまで、私は裸のまま、布団の中で待っていろ……という事か?」
「そんな意地悪な事を仰らないでください」
苺が頬を膨らませ、少し怒ってみせたが、ストラスは自分の顔を苺の頭に埋め、鼻で笑った。そして、苺の柔らかい髪の毛を優しく撫でた。自然と体勢を直し、苺に腕枕をした。
「ストラス様、腕枕をして頂くのは大変嬉しいのですが、これだとストラス様の腕が痺れてしまいます」
「なんだ? 苺は私を寝かせてくれないのか? もしくは、私の申し出に不服なのか? この客は、金は落としてくれるが、我儘で取り扱いにくい奴だと」
ストラスは苺にわざと煽るように、誇張して話した。苺は今まで背中を向けていたが、ストラスと体を向かい合わせて、怒った顔をして、ストラスを見つめた。苺が反論しようと喋ろうとした際、ストラスは人差し指で苺の柔らかい唇を抑え、額にキスをした。
「うぅっ……、そうやって苺を誂って、ストラス様がお考えになる事はよく分かりません」
「はぁ……、苺…………」
「なんでしょうか? ――って、もう寝てらっしゃる」
ストラスは苺に身を寄せ、体温と鼓動を感じながら、眠りについた。
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