38 / 63

5-12

 苺は緊張しているのか、胸に手を当て、数回深呼吸をした後、ゆっくりと浴衣を脱いだ。そして、ストラスと目がなるべく合わないようにして、布団の近くに正座をすると、再び頭を下げ、顔を背けながら、布団に入った。 「……し、失礼いたします」 「…………」 「お時間になりましたら、お声をかけますので――」 「――体が冷える」 「はい?」 「だから、体が冷えると言っているんだ」  苺は布団に入ったものの、ストラスに背を向け、自分の体を掛け物から半分出た状態で布団の隅にいた。一向に近付いても来ない苺に、ストラスは痺れを切らし、少し呆れた口調で言い、苺の体を自分の方へ引き寄せた。 「あ、あの! 苺はまだ体を清めていませんので……」 「だから、どうした?」 「『だから、どうした?』ではなくて、その、ストラス様の体が汚れてしまいます」  苺がストラスの体から離れようと少し抵抗してきた。しかし、もがけばもがく程、ストラスに強く抱き締められ、ストラスの懐から出ることが出来なかった。 「汚れはしないだろう。現に、苺の体からは石鹸と香水の新鮮な香りがする」 「そ、それは身だしなみであって……」 「なんだ? では、苺が風呂から出るまで、私は裸のまま、布団の中で待っていろ……という事か?」 「そんな意地悪な事を仰らないでください」  苺が頬を膨らませ、少し怒ってみせたが、ストラスは自分の顔を苺の頭に埋め、鼻で笑った。そして、苺の柔らかい髪の毛を優しく撫でた。自然と体勢を直し、苺に腕枕をした。 「ストラス様、腕枕をして頂くのは大変嬉しいのですが、これだとストラス様の腕が痺れてしまいます」 「なんだ? 苺は私を寝かせてくれないのか? もしくは、私の申し出に不服なのか? この客は、金は落としてくれるが、我儘で取り扱いにくい奴だと」  ストラスは苺にわざと煽るように、誇張して話した。苺は今まで背中を向けていたが、ストラスと体を向かい合わせて、怒った顔をして、ストラスを見つめた。苺が反論しようと喋ろうとした際、ストラスは人差し指で苺の柔らかい唇を抑え、額にキスをした。 「うぅっ……、そうやって苺を誂って、ストラス様がお考えになる事はよく分かりません」 「はぁ……、苺…………」 「なんでしょうか? ――って、もう寝てらっしゃる」  ストラスは苺に身を寄せ、体温と鼓動を感じながら、眠りについた。

ともだちにシェアしよう!