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6-1(苺視点↓)

 その後もストラスは毎週決まった時間に予約した。しかし、来店しては苺と一緒に風呂へ入り、ただ添い寝するだけの関係が続いた。  メフィストはすっかり月下の事を気に入ったのか、なるべく独占したいのか、時間枠いっぱいに予約を取り、ストラスよりも早い時間に茶屋へ来ることが多かった。  女将は二人に固定の太客が出来て、とても嬉しそうにしていた。 「月下も苺も太客が出来て、嬉しいわ。今後も頑張って頂戴よ」 「はい、畏まりました」  二人は女将に頭を下げると、離れの準備をするために、離れまでの廊下を進んだ。苺が浮かない顔でため息をついていると、月下が優しく声をかけてきた。 「苺、どうしたんですか? 悩み事ですか?」 「――す、すみません! か、考え事をしていました」 「ふふっ、それは顔を見たら、すぐ分かりますよ。私で良ければ、聞きますよ」 「で、でも! 月下お兄様はもうじきメフィスト様がいらっしゃいますし……」 「もうじきと言っても、あと三十分もありますし、準備はほとんど終わってますから。苺の離れの準備をしながら、聞きましょう」 「で、でも……」  月下はニッコリと笑うと、苺の手を引き、苺が使う離れへ一緒に入った。 「悩みを聞く前に、一つ。女将が喜んでいるのに、浮かない顔をするのはあまりよろしくないですよ。他の子達も頑張っているんですから、もっと堂々とした方が良いですよ」 「はい、……すみません」 「それで、悩みはなんですか? 良かったら、聞きますよ」  二人は布団を敷き直し、取り込んだバスタオルを畳んだ。苺は意を決して、悩みを打ち明ける事にした。 「あの、ストラス様のお相手をさせて頂いているのですが、毎回、添い寝をするだけで……。これと言ってご奉仕をさせて頂いていないのに、お金を頂戴していいのかと思いまして。本当にこのままで良いのかを悩んでいます」 「そうなのですね。ストラス様がどのようなお考えなのかは分かりませんが、必ずしもまぐわいをしなければならない訳ではありませんし、私達の使命は『お客様を満足させる事』ですから。ストラス様が苺との添い寝で満足しているのでしたら、それはそれで良いと思いますが、それでは駄目なのですか?」 「確かに満足して頂ければ、苺もそれでもいいかなと思いますが。やはり、このような場ですし、なんというか……」 「ストラス様には本番が出来ない事はお伝え済みなのでしょう? もしかしたら、その事を気にされているのかもしれませんね」 「月下お兄様、苺はどうしたら良いでしょうか? ストラス様には良くして頂いているので、もっと満足して頂きたいのです」  月下は顎に手を当て、少し考えた。そして、しばらくして閃いたのか、立ち上がり、畳んだタオルを棚にしまい込んだ。月下は苺を見るなり、ニッコリと微笑んだ。 「まずは、苺が抱えている問題を解決しないとですね。お互いがリラックスしていないと、苺が想像している『まぐわい』というものは出来ませんよ。ましてや肉体関係を築く事すら難しいと思います。そう言えば、今日はいつもより長くお相手をするのでしょう?」 「はい、今日はいつもより長めに予約をして下さっています」 「それでしたら、街の散策がてらに、ガラス細工の工房へ寄ってくれませんか?」 「ガラス細工の工房ですか?」 「本来は私が使う予定だったのですが、折角、苺にも固定客がつくようになった事ですし、私からのお祝いという事で受け取って下さい。それを使えば、少しは互いのわだかまりが解消されるでしょう」 「しかし、月下お兄様が使われる品を苺なんかが頂いていいのでしょうか? そもそも何を注文なさったんですか?」 「ふふっ、それは開けてからのお楽しみですよ。茶屋に戻ってから、ストラス様とご一緒に箱を開けてみてください。――では、私はお迎えの時間なので、失礼しますね」 「……はい。お手伝いして頂き、ありがとうございました」  月下は手を口に当て、小さく笑った。苺は本来、月下が使うはずだったのに、自分の祝いの品として、その物を頂いていいのかと困惑した。具体的にどんなものかやその理由を聞こうとしたが、月下は何も答えずに、離れを去ってしまった。

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