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 苺は準備が終わり、玄関横の大見世の部屋へ向かった。その途中の廊下で、月下とメフィストが仲睦まじい姿で離れへ向かって、歩いていた。苺は廊下の端に寄り、頭を下げた。そうすると、メフィストは立ち止まり、爽やかな笑顔で苺を見た。 「苺ちゃん、久し振り。ストラスとは上手くいってるか?」 「メフィスト様、お陰様で。ストラス様には良くして頂いております」 「そっか。それならいいんだけど。アイツはさ、いっつも憔悴しきった状態でここへ来るからさ、迷惑かけてんじゃないのかなって心配で。悩みがあって、調べものをするのはいいんだけど、度が過ぎるから、いい加減やめろってこの前言っておいた。本とにらめっこする位なら、苺ちゃんとにらめっこしなって言っておいたから」 「気にかけて下さって、ありがとうございます」 「アイツにも『本当の楽しみ方』を味わって欲しいんだ。――おっと、時間が勿体ない。じゃ、苺ちゃんも無理するなよ」  メフィストはニカッと歯を見せ、苺の頭を撫でた。そして、月下の腰に手を回し、再び離れへ向かって、歩き出した。苺は再び頭を下げ、二人を見送った。苺はそんな仲睦まじい二人を見て、少し羨ましい気持ちと同時に、胸がギュッと締め付けられるような感覚に襲われた。苺は服の胸元を押さえ、大見世の部屋へ向かった。  苺はモヤモヤとした気持ちを募らせ、ストラスが来るまで、茶屋の雑用などをした。他の男娼が客と楽しそうに腕を組んだり、体を摺り寄せる姿を廊下で見る度に、先程と同じ感情が芽生えた。  そんな痛みに堪えながら、苺はその痛みを忘れたいがために、いつもより多くの雑用をこなした。そうこうしているうちに、予約の時間となり、ストラスが来店し、女将から声がかかった。 「ストラス様、お待ちしておりました。今日のご体調はいかがですか?」 「あぁ、メフィストから調べものを禁止されてからは、きちんとした生活を送っているよ。それにしても、女将と苺には度々迷惑をかけていたな。本当に申し訳ない」  ストラスは目の下のクマも無くなり、顔色も戻っていた。ストラスは今までの無礼を詫び、女将と苺に謝罪した。苺は驚き、慌ててストラスの元へ駆け寄り、頭を上げるように伝えた。 「そんな! 頭をお上げください! 迷惑だなんて一度も思った事ありませんから!」 「そうか? それならいいんだが……。そうだ、女将。急で申し訳ないが、苺と一緒に街を散策する事は可能か? 別料金がかかるか?」 「一応、出来ますが……。出来れば、事前に言って頂けると有り難いのですが……」  女将は口に手を当て、苦笑いしながら、苺に目配せした。苺は外行きの着物ではなく、浴衣であった。苺はストラスの耳元で事前に申し出る決まりを伝えた。ストラスは顎に手を当て、考え込み、持っていた金袋から今日の代金の二倍相当の金貨を女将に差し出した。 「外行きの着物に着替え終わるまで待っている。女将、無理強いさせて申し訳ないが、その金でどうにかならないか? 足りないようなら、もっと出す」  ストラスが金袋から次々と金貨を出すため、女将は慌ててストラスの手を止めた。そして、女将は手が空いている他の男娼に、ストラスの接客を任せ、慌ただしく苺を連れて、奥の部屋へ消えていった。  ストラスは玄関先の長椅子に案内され、おもてなしを受け、他の男娼達に挟まれる形で会話をした。 「ストラス様は四天王でいらっしゃるんですよね? 貫禄があって素敵です!」 「前々からお話したいと思っていたんです! それよりも、いつも同じ相手だとつまらないでしょう? 僕達の方がストラス様をより満足させられる事が出来ますよ。どうですか? お試しに」  端正な顔立ちをした男娼達が上目遣いをし、猫撫で声でストラスに迫ってきた。そして、ストラスの腕にしがみつく様に体を摺り寄せた。ストラスは二人の話を軽く受け流し、出されたお茶と茶菓子を食べた。  ストラスから喋る事は無く、自分達の顔もまともに見てくれないのが分かると、男娼達は素っ気無い顔をし、早々に大見世の部屋へ戻った。そして、大見世の部屋でコソコソと話す声が聞こえ、また別の男娼達がやってきて、猫撫で声でストラスに喋りかけてきた。 「ストラス様はどのようなお方が好みなのですか? 苺みたいなのが好みなのですか? あんな子より僕の方がストラス様を気持ち良く差し上げられますよ?」 「そうだな……。好みかどうかは分からん。……それよりも、この茶菓子はどんな風に作られているんだ? このお茶とよく合う。この街で買えるのか?」 「えっ、えっと、それは……」  代わりに来た男娼はストラスからの突拍子もない質問に顔を引き攣らせた。そして、再び沈黙の時間が流れた。男娼は流石の気まずさに心が折れ、無言で頭を下げ、大見世の部屋へ戻っていった。

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