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 ストラスが大見世の部屋をチラッと覗き、男娼に尋ねようとしたが、誰も目を合わせてくれず、一人で困り果てていた。  丁度その時、奥の部屋から着物を着た苺が姿を現した。黒地に落ち着いたトーンの牡丹と百合があしらわれ、オフホワイトの兵児帯を結んでおり、いつもと雰囲気が違って見えた。 「ストラス様、お待たせいたしました」 「……あぁ、そうだな」  ストラスが苺の着物姿に見惚れていると、奥の部屋から一緒に出てきた女将が口に手を当て、笑っていた。 「あら、ストラス様。もしかして、見惚れてらっしゃいますか? ふふっ、良かったわぁ。選んだ甲斐があるわぁ」 「そうだな。とても似合っていて、綺麗だ。女将のセンスが良いというのが分かったよ」 「それは、それは。お褒め頂き、ありがとうございます。さぁ、今日は晴れてるみたいですし、ゆっくりと散策を楽しんで下さいまし」 「では、行ってくる。あまり遅くならないように、こちらへ戻ってくる」  ストラスと苺は女将に見送られ、街の方へと進んだ。ストラスは自分の後ろを恥ずかしそうに歩く苺の手を咄嗟に握った。苺は体をビクッとさせ、ストラスの顔をゆっくりと見上げた。しかし、苺は恥ずかしさのあまり、頬を赤くさせ、目を泳がせながら、俯いた。 「……どうした? 苺の案内がないと、街を散策出来ないぞ」 「いえ、それは分かっているのですが……。その……」 「なんだ? はっきりしないな」 「申し訳ございません! あの、着物姿を褒められた事が無かったものですから……。う、嬉しくて……。ありがとうございます。お伝えするタイミングが見計られず」 「なんだ、そんな事か。綺麗なものに綺麗と言ってはいけない決まりがあるのか? 難しい世界だな。それよりも、今日は本を取り扱っている店や古美術品などが見てみたい」 「畏まりました。実は、私事ながら、受け取る品がありまして、ストラス様が見終わった後にその店へ立ち寄りたいのですが、よろしいでしょうか?」 「あぁ、構わない。むしろ好都合だろう。苺も見て回りたいものがあれば、遠慮なく言ってくれ」 「ありがとうございます」  苺は会話中にストラスに握られた手をさり気なく離そうとしたが、ストラスは離そうとしなかった。人目につきそうで恥ずかしかった。  いつもの無表情で何を考えているか分からない感じだったが、苺にはストラスがなんだか嬉しそうな表情をしているように思えた。苺はこのまま手を繋いでいた方が良いと思い、恥ずかしさを堪え、まずは本屋へ向かった。  本屋に入ると、古書の独特な香りが漂っていた。壁一面にはずらりと本が並べられ、本棚の高さは天井近くまであり、いくら高身長のストラスでもつま先立ちして、ようやく届くかどうかの高さだった。また、本棚にしまいきれなかった本がところ狭しと積み上げられていた。 「私の書庫よりかは狭いが、掘り出し物があるといいな」 「ストラス様はいつも何を読まれるのですか?」 「そうだな……。魔術書は読み尽くしたし、薬学や医学、心理学も読んだりするぞ。詩集や伝記も読むぞ」 「そうなのですね。やはり、ストラス様は博識でらっしゃいますね」 「そんな事は無いぞ。何百年生きていようが、まだ知らないだらけだ。現に、膨大な知識を持ち合わせていても、私自身が抱える悩みは解決していない。だから、私は本を読んでいるのだと思う」 「はぁ……、ストラス様の探究心は計り知れないですね。苺も頑張らないといけないですね」  苺が意気込んでいると、ストラスは口に手を当て、静かに笑った。そして、繋いでいた手を離し、苺の頭を優しく撫でた。 「私は向こうの本棚を見てくる。もし、退屈だったりしたら、遠慮なく言ってくれ」 「はい、畏まりました」  ストラスは中央の本棚を挟んだ反対側の本棚へ向かった。苺はストラスの姿が見えなくなったのを確認すると、少し汗ばんだ手を胸元に置き、その上から反対側の手をそっと添えた。

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