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「あ、あんなになられてるのに、ストラス様はなんで平気なのでしょうか? 他のお客様なら『すぐ奉仕しろ』と仰るのに。苺に気を遣ってらっしゃるのか、……いや、ただ偶然の事象であって、苺でそうなったのではなく、こういう場合は苺以外の者が奉仕した方が適切なのかもしれない」  苺は静まり返った脱衣所でブツブツと独り言を言いながら、用意していた浴衣を着た。そして、髪の毛を乾かし、部屋へ向かった。  部屋へ入ると、ストラスが机の前に座り、何かを読んでいた。机の上にはストラスが買った指南書とガラス細工の工房で受け取った木箱が置かれていた。  ストラスは苺が部屋へ入ってきたのに気付くと、苺を手招きし、自分の隣へ座らせ、千代見草の文様が施された封筒と便箋を手渡した。 「これは苺の筆跡か? しかし、このようなものを書く時間は無かったと思うが?」 「拝見しますね。……この筆跡は月下お兄様です。でも、苺達が離れに着いた時には無かったような。わざわざ届けに来られたのでしょうか? それなら、一声掛けて下さって頂ければ」  苺はそんな大した要件ではないのだろうと軽く流し読みをしていると、『玩具』の文字が目に飛び込んできて、改めて初めから読み直した。  読むにつれて、内容の卑猥さに苺は段々と頬を赤くし、便箋を持ったまま、顔を隠した。そして、便箋を少しズラし、ストラスをちらりと見た。 「あ、あの! ストラス様は……こ、これをどこまで読まれましたか?」 「どこまで? 勿論、最後まで読んだぞ。とても字が綺麗で読みやすかった。確かに言われてみると、月下が書いたのだなと分かる気がする」 「いえ、そういうことではなくて……。でも、ストラス様は最後まで読まれたのですね」 「あぁ、そうだ。なんだ? 読んではまずかったか?」  苺は首を大きく横に振った。そして、便箋を机に置くと、躊躇いながらも木箱に手を伸ばした。  苺は木箱の蓋をゆっくりと開け、中身をそっと覗いた。苺は例のあれと分かると、急いで蓋を閉め、元あった場所にそそくさと戻した。苦渋に満ちた表情をする苺を心配しながらも、ストラスは木箱を手に取り、蓋を開けた。 「なんだ、ただのガラス細工じゃないか。苺がそのような表情をするから、恐ろしいものが入っているのかと思ったぞ。美しいではないか。さすが職人芸だな」 「――っ! 駄目です! は、早くしまってください!」 「何故、そんなに怒る? 粋な計らいだとは思わないか?」 「おっ、思いません! そのようなオモチャをわざわざガラス細工の店主に造らせるなんて! 流石の苺でも怒ります!」 「ん? ちょっと待て」  苺はすぐ片付けるようにストラスを説得したが、ストラスは苺の言葉を聞き、急に眉間に皺を寄せ、苺を宥めた。 「苺、これは『玩具』だろう? 何故、『オモチャ』なのだ? 手紙には『気持ち良くなる玩具』と書いてあっただろう? 『オモチャ』という物は本来、子供達が遊ぶ物だろう? これのどこが『オモチャ』なのだ?」  ストラスは例のあれを握り締めながら、至って真面目な顔で淡々と応えた。苺は動きを止め、目をパチクリさせた。そして、少しの沈黙の後、苺は顔を引き攣らせながら、待つようにジェスチャーをした。 「――へ? で、ですから、それは『オモチャ』であって……。えっ、……あれ? ちょっ、ちょっとお待ち下さい! えーっと、失礼ながら、お聞きしてもよろしいですか?」 「あぁ、構わん」 「ストラス様はその握り締めている物を何だと思われてますか?」 「だから、『玩具』だろう?」 「いえいえ、そうではなくて! もっと具体的に!」  苺はすごい剣幕でストラスを見つめた。ストラスは何故そのような表情をするのかが分からず、首を傾げていた。

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