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「だから、私がいつも疲れて、ここを訪れるから、ガラス製のツボ押し玩具を月下が準備してくれたのだろう? 手紙にも『どちらが使っても構わない』と書いてあっただろう? 前に苺からマッサージを受けた時、苺の指に負担がかかるだろうと心配していたんだ。これだと、先端が良い具合に丸みを帯びて、握る部分も適度な凹凸があり、握りやすい。しかも、ガラス製だが丈夫だ。今度、オイルマッサージの時に使うのはどうだ?」  ストラスは例のあれの先端を自分の肩に押し当て、ツボを刺激して見せた。苺はストラスが自分を誂うために、わざと冗談を言っているのではないかと疑いの目で見た。  しかし、気持ち良さそうにツボ押しをし続けるストラスを見て、本当にツボ押し棒だと勘違いしている事や互いの考えに相違があるのだと気付いた。苺はどう伝えるべきか考えたが、もしやと思い、再び月下からの手紙を手に取り、ストラスに見せた。 「あ、あの……。ストラス様は本当に最後まで読まれたのですよね? きちんと読まれたのですよね?」 「だから、最後まできちんと読んだと言っているじゃないか。――ほら、苺もツボ押しをしてやろうか?」  ストラスが例のあれを持ち、にこやかな顔で苺の肩に押し当てようとしてきたが、苺はやや強い口調で即刻拒否した。苺は未だに分かっていないストラスに対して、呆れた表情を浮かべ、手紙をストラスの顔に突き付けるように近付けた。 「ストラス様。悪ふざけもいい加減にしてください。いくら苺でも怒りますよ」 「なんだ、そんなに目くじらを立てて。苺らしく無いぞ? …………はぁ、分かった。もう一度きちんと読む事にする」  ストラスは例のあれを箱に戻すと、手紙を熟読したが、苺の顔を見て、両方の手のひらを上に向け、両肩をあげる仕草をした。 「なんら問題はないが? どこがおかしい?」 「しょ、正気ですか? えーっと、……魔族は手紙で暗号のやり取りはされないのですか?」 「何故だ? そもそも暗号を使うまでも無いだろう? 魔族が魔族以外に捕まると思うか?」 「……。苺が間違ってました。でも、別にストラス様を馬鹿にしている訳ではありません。いいですか? 一度しかお伝えしませんから、よく聞いてください」 「あぁ、分かった。教えてくれ」  苺は手紙を机に広げ、ストラスと一緒に見た。そして、苺は手紙の初めの文字を縦に指でなぞった。 「指でなぞった通りに読んでください。――あっ! 声に出して、読まないでください! その、あの……、あまりにも直接的過ぎるので」 「あぁ、分かった」  急に頬を赤くし、照れた表情をする苺に対して、ストラスは首を傾げ、苺に教えてもらった通りに、改めて手紙を縦読みした。 「苺の、菊に、抜差して、つかうもの? ど、どういう意味だ? そもそも苺の菊とはなんだ? 何かの暗号か?」 「き、菊……菊門や菊の蕾などと聞いて、心当たりはありませんか?」 「……いや、全然。こんな言葉は聞いた事も見た事もない」  苺は余計に混乱するストラスを見て、自分達の間でしか通じない言葉であった事に気付いた。

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