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第9話

 一時間ぐらい経っただろうか、木々の中をしばらくの間進んでいたら開けた場所が見えてきた。「着いたぞ」という難波の声で悠哉は周りを見渡すと、そこには眩しいほどの青い海が広がっていた。 「すごいきれい…」 「だろ?今日は天気もいいし最高の海水浴日和だな」  陽翔が感嘆の声を漏らすと、難波は自慢げにそう言い、車を停めエンジンを切った。  車から降りると、潮の匂いが悠哉の鼻腔を掠め、目の前がキラキラとした海で覆われていることが感じ取れた。海なんて来たのは何時ぶりだろうか、遠い記憶に家族三人で訪れたような記憶も微かにあるが、十年以上前の出来事で悠哉はほとんど覚えていなかった。海がこんなにも広く、青いことだって悠哉は忘れていた。  「悠哉!」と陽翔が悠哉の手を取り海がある方角へ走り出す。ジャリジャリとした砂の感触がなんだか気持ち悪く、走りずらい。 「ちょっ、陽翔!急になにすんだよ!」 「だってすごい綺麗なんだもん!もっと近くで見たくってさ!」  陽翔の笑顔がいつもよりも眩しいように悠哉には見えた。海なんかよりもキラキラときれいな陽翔の笑顔に思わず目が離せなくなってしまう。  走るスピードを徐々に落とし、足先に水が触れようとするぐらいの近さで二人は立ち止まった。すると後ろから「おーい、あとでたくさん遊べっからとりあえず中入るぞー」と難波の声が聞こえた。海に気を取られて気が付かなかったが、海から百メートル程離れた所に一軒家程度の大きさの建物が見える。おそらくあの建物が別荘なのだろう。外観はログハウスのようなものでバカみたいにでかい訳ではなく、こじんまりとした可愛らしい建物だった。  中に入ると二階建てになっており、一階が共有スペース、二階には小部屋がいくつか配置されているような造りになっている。 「好きな部屋使ってくれていいから、とりあえず荷物置いて着替えてこいよ」  そう言って難波はいくつかある部屋の中の一番奥にある部屋に入って行った。 「あいつ何者…?」 「お父さんが社長っていう話は聞いてたけどこんな立派な別荘持ってたなんて…」  悠哉と陽翔が難波の金持ちっぷりに呆然としていると、なにを今更驚いてるんだと言いたげな顔で「ほら、行くぞ」と彰人が悠哉の肩を叩いてきた。  部屋の中はそこまで広くなく、ベッドと机が置いてあるだけのようだ。悠哉は荷物を床に置き、ベッドに座る。  まだ始まったばかりなのに今日一日を振り返ると、今起きている出来事が現実なのか悠哉には受け入れ難かった。今までの人生で友人とこのように泊まりで出かける経験などなかった自分が海に訪れている。しかもそこには彰人もいるなんて、ついこの間の自分にこの事実を教えてもきっと信じてくれないだろう。  一先ず水着に着替え、悠哉は部屋を出た。階段を下りると三人ともすでに着替え終わっているようで「おっ、来たな」と難波が声をかけてくる。  全員海パンにTシャツという格好で悠哉は少々驚いた。難波みたいな運動を得意とする人間は、自分の鍛えられた身体を他人に見せびらかしたいものだと思っていたから上は着ないのだと勝手に思い込んでいたのだ。 「なんだ、Tシャツ着てるのか」  彰人が冗談めいた口調で言う。 「当たり前だろ、お前こそTシャツ着るんだな」 「まぁな、がっかりしたか?」 「そんなわけないだろ」  悠哉が冷たく言い放つと「全くお前は冷たいな」と彰人に笑われた。

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