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番外編7

 家へ帰ると、靴を脱ぐ暇も与えられないような速さで彰人に抱きしめられた。そしてすぐに彰人に唇を奪われ、二人は縺れるように濃厚なキスを堪能した。  この日はとにかく盛り上がった。悠哉が煽ったせいもあるが、普段は悠哉を包み込むような優しい行為に励む彰人がまるで本能のまま激しく悠哉を求めていた。悠哉も悠哉で与えられる快感の中、ただひたすらに彰人を求め続けた。彰人の体温、声、感触、全てが欲しくて仕方がなかった。  行為を終えシャワーを浴びた悠哉は再びベッドへと身体を倒した。今になってとてつもない羞恥が悠哉を襲う。  何故あんなにも積極的に彰人を求めてしまったのだろうか、普段の悠哉ならばありえない事だった。しかし今日の悠哉はどうにも様子がおかしく、自分でも実感してしまうほどだった。  自分とはまるで真逆な彰人の初恋相手、難波からその話を聞いただけで悠哉には様々な感情が渦を巻くようだった。一体どんな相手だったのか、彰人は男のどこに惚れたのか、そして何故相手の話をしたくないのか、それらの疑問が悠哉の頭を支配する。初恋相手を気にするなどどれだけ女々しいのか笑いたくなる、けれど自分の初恋は彰人だというのに、彰人の初恋は別の誰かだという事実にどこか腑に落ちないものを感じていた。自分以外の誰かに恋心を抱いていた、そんな彰人を想像するだけで悠哉にモヤっとした感情が芽生える。だからだろうか、必要以上に彰人から求められたいと感じたのは。別の誰かではなく、彰人には自分を愛して欲しかった。とにかく彰人からの愛を独り占めしてしまいたかったのだ。 「悠哉、夕食を持ってきた」  ノックの音を聞き入れ身体を起こした悠哉は、お盆に乗せた夕食を持ち部屋へ入ってくる彰人に視線を向けた。 「身体の方は大丈夫か?」 「あ、ああ、なんとかな」  未だにじんじんと悲鳴をあげている腰をさすりながら悠哉は答える。テーブルにお盆を起きベッドへと腰をかけた彰人は「無茶をさせ過ぎた、悪かったな」と悠哉の頬へと手を添え謝った。 「確かにちょっとやり過ぎだったけど…俺が誘ったんだから謝んなよ。今日はなんか…マジでどうかしてた」  悠哉は羞恥から彰人の瞳を見ることが不可能であった。彰人に触れられると先程の行為を思い出すように身体が熱くなってしまって敵わない。 「そうだな、今日のお前はえらく積極的で俺も驚いた。だけどすごく可愛かったぞ」  前髪を掻き分け、ちゅっと悠哉の額にキスをした彰人は、満足気に頬を緩めた。悠哉は途端にかぁっと顔全体に熱が集まる感覚を感じる。「ば…っばか…!」と額を押さえると「ふっ、本当にお前は可愛いな」と頭を撫でられた。  愛されている、こんなにも大きな愛で包まれていると言うのに、自分は何を不安に思っているのだろうかと悠哉は考えた。初恋相手が別にいたとしても彰人が今好意を寄せているのは自分なのだと、それは揺るぎない事実ではないか。くだらない嫉妬などしていても無意味なだけだ、 彰人だって話したくない過去の一つや二つあるだろう、もう初恋相手について考えるのはよそうと悠哉は決めたのだった。 「はぁ…」  買い物袋を片手に腰を摩った悠哉は、未だに引くことの無い鈍痛に顔を顰めた。昨日の彰人との行為が尾を引いている状態に、何故だか顔が熱くなるようだ。あんなにも激しく抱かれた事はなかった、だからこそ次の日まで腰の痛みが残ることもなかった。腰の痛みは辛いものだが、彰人との行為の繋がりが今日まで残っている事にどこか嬉しさを感じてしまう始末だった。  付き合い始めてから数ヶ月、彰人と共に過ごす時間が増えるにつれて彰人へ対する愛おしい気持ちも確実に増している。彰人に抱かれた名残が残っていることに嬉しさを感じてしまうほど、悠哉は彰人が好きで堪らなくなっていた。  ──どれだけ俺の頭は彰人で埋め尽くされてるんだ…っ。  赤信号の前で立ち止まった悠哉は、赤くなっているであろう自身の顔を片手で覆った。初恋相手にまでくだらない嫉妬心を抱いてしまうなんて、全くもって情けない。  信号が青になったことを確認した悠哉は、なんの躊躇いもなく歩みを進めた。 「危ない…っっ!!」  男の叫び声が耳に入った途端、突然何者かに突き飛ばされるように悠哉の身体が大きく揺れた。尻もちをついた悠哉の眼前を、猛スピードで過ぎ去っていくトラックが風を切る。  一瞬のことで状況を把握出来ず放心状態の悠哉だったが「君大丈夫っ?」という声でハッと我に返った。 「えっと…」 「全くなんだよあのトラック、信号無視じゃないか」  ぐいっと腕を引かれ身体を起こされた悠哉は、男の姿を目に入れやっと状況が見えてきた。信号無視のトラックが突っ込んできたことも気づかずに横断歩道を渡ろうとした悠哉を、男は庇ってくれたのだ。もし男がいなければ軽い怪我では済まなかったかもしれない、悠哉は自身の不注意さにゾッと体を震わす。 「あ、ありがとうございます…っ、危ないところでした…」  悠哉はバクバクと音を立てる心臓を押さえながら、目の前の男へと頭を下げた。 「君に怪我がなかったなら良かったよ」 「あ、あの…お礼を…っ」 「え?いいよ礼なんて。じゃあね、気をつけて帰るんだよ」  一言そう言うと、男はすぐにその場を立ち去ってしまった。一人取り残された悠哉は、とっくに赤信号へと変わってしまった横断歩道の前で呆然と立ち尽くす。颯爽と現れ爽やかに去っていったあの男、今時あのような若者がいるのかと悠哉はどこか冷静な思考で関心してしまった。  地面に放り投げられた買い物袋を手に取った悠哉は、今のことは彰人には内緒にしようと決める。また彰人の心配性が発動し、これ以上過保護になられても困る。考え事をしすぎるのも良くないな、と悠哉は自身の頬をぱちんと叩いた。

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