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【魔界の第七皇子は、平穏に暮らしたい!】〜気になるあのひとは、魔族殲滅を望む復讐者でした〜 2-3 迷惑だった? | 柚月なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
【魔界の第七皇子は、平穏に...
2-3 迷惑だった?
作者:
柚月なぎ
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29 / 50
2-3 迷惑だった?
暁狼
(
シャオラン
)
は
紅玉
(
ホンユー
)
のことなど無視して、どんどん先へ進んで行く。商家や民家が建ち並ぶ、居住区を抜けた先にある商業区は、相変わらず人で賑わっており、さまざまな店が軒を連ねている。 他の地から商人たちが買い付けに来たり、旅の者たちの物資の補給にも役立っている市井は、水路が複雑に通っており、町の周りにはいくつもの広い田畑があった。 綺麗に整備された水路はその田畑にも繋がっており、地産物も豊かな町のようだ。それを統治するのはこの町の領主、
陳 佩芳
(
チン ペイファン
)
。世襲制なのか、この町はこの
陳
(
チン
)
家が代々領主を務めているらしい。
紅玉
(
ホンユー
)
は昨日さんざんこの辺りは通ったのだが、興味が尽きることはなかった。背の高い
暁狼
(
シャオラン
)
は目立つので、もし見失うとすれば、彼が故意に自分の前から姿を消した時だろう。 (嫌われてはないと思うけど、好かれてもいないよね? でも、やっぱり優しいひとだと思うな) うんうん、と
紅玉
(
ホンユー
)
は頷き、離れてしまった距離分を駆け足で縮める。 そう思うのは、確かに後ろも見ずにどんどん先に行ってしまうのだが、
紅玉
(
ホンユー
)
とある程度の距離が離れると、歩む歩幅を緩めてくれるのだ。 上機嫌に鼻歌を歌い、ぴょんと弾んで
暁狼
(
シャオラン
)
の左横に追いつくと、
紅玉
(
ホンユー
)
は頭ひとつ分は背の高い彼の横顔をこっそり見上げる。 (どうしてこのひとは野良の道士なんてしてるんだろう? 訊いたら嫌な思いをするかな? 僕も話したくないことを話すの、あんまり気が進まないし。やっぱり話してくれたら聞くのが正解かな?) じっと見すぎていたせいか、視線が重なる。その瞳は切れ長で一見怖そうに見えるが、
紅玉
(
ホンユー
)
は睨まれても怯むこともなく、むしろ笑顔で返す。それには
暁狼
(
シャオラン
)
が耐えられないのか、せっかく重なった視線が外された。 しかし
紅玉
(
ホンユー
)
の興味はコロコロ変わるので、次に目に付いたものを指差して、
暁狼
(
シャオラン
)
の漆黒の衣の袖をくいくいと遠慮なく引いた。 「兄さん、見て! 僕、あれが気になる! ねえ、話を聞きに行こう?」 指を差した先にある店の看板を見つけると、
暁狼
(
シャオラン
)
は眼を細めた。そこはさまざまな箱が並べられた店で、行商人向けの店のようだった。並べられている箱の値段はピンからキリまであって、人の良さそうな老婆が店番をしていた。 (箱? なぜそんな店が気になる?) 意味が解らず、
暁狼
(
シャオラン
)
はますます表情が曇っていく。しかし
紅玉
(
ホンユー
)
は袖を離してくれなかった。 「時間の無駄だ。あの店と呪詛となんの関係が?」 「うん、僕もわからない」 は? と思わず間の抜けた顔をしてしまったが、すぐにいつもの無に戻す。頭を搔き、なんのつもりか訊ねようとしたが、
紅玉
(
ホンユー
)
の顔を見るなりその気も失せた。彼もなぜ気になったのか、本気でわかっていないようだった。 「でも、僕の"勘"は、けっこう当たるんだよ? ね、行ってみよう!」 「······おい、勝手に決めるな、」 はあ、と嘆息して、
暁狼
(
シャオラン
)
は袖を引かれるままに
紅玉
(
ホンユー
)
に連れられて行く。先程、彼は彼の師に自分の手伝いをするように言われていたはずだ。なのに、なぜ自分が彼の言うことを聞いてやらないといけないのだろう。 (意味が解らない。なんなんだ、こいつは······そもそもなんで俺がこれの面倒をみる羽目になっているんだ? おかしいだろう? さてはあの仙人もどき、厄介者を俺に押しつけやがったな、) ますます不信感が募ったが、今更どうにもできない。この青年はおそらくどこかの名家の公子。何度も頼まれ仕方なく弟子にしたが、手に余っていたのだろう。昨日今日少し一緒にいるだけで、
これ
(
・・
)
を扱う苦労が目に浮かぶ。 まるで何も知らない子供のように、興味があれば右へ左へふらふらする始末。あれでは迷子になっても文句は言えまい。 しかし任されてしまった責任感からか、
暁狼
(
シャオラン
)
は
紅玉
(
ホンユー
)
との距離が離れてしまったら、自ら歩幅を緩める羽目になる。 そんな風に他人に気を遣うなど、何年ぶりだろう。今も袖を掴むその手を振り払えずにいる。 『兄さん』 五年ぶりにそんな風に呼ばれた。もしかしなくても、昨日会ったばかりのこの青年に弟を重ねていたのだろうか?似ても似つかない、この天真爛漫な青年に? 幻影を重ねたことに罪悪感を覚え、
暁狼
(
シャオラン
)
は無意識に首を振った。 (馬鹿か。俺を兄と呼んでいいのは、
暁燕
(
シャオイェン
)
だけだ。そういう意味の"兄"でなくとも、他人が呼ぶのをなぜ許した?) 顔がくしゃりと歪む。袖を引いて前を歩く
紅玉
(
ホンユー
)
はそれに気付くことはない。くそ、と唇を噛み締める。もう、とっくに乗り越えたと思っていたのに。込み上げてくるものに吐き気を覚え、ぐっと胸元を握り締める。 「······大丈夫? 兄さん。ごめんなさい、もしかして具合が悪かった?」 気付けばその歩が止まり、
紅玉
(
ホンユー
)
が心配そうに見上げて来る。冷や汗をかいている
暁狼
(
シャオラン
)
の頬に手を伸ばそうとしてきたので、思わずその手を掴んでしまう。それには
紅玉
(
ホンユー
)
が驚いて、少し戸惑った表情を浮かべた。 「あ、えっと、僕、なにかあなたの気に障ること、したんだよね? ごめんなさい。自分の事ばかりだったかも」 強く握られた手が好意への拒否だと思ったのか、申し訳なさそうに謝る
紅玉
(
ホンユー
)
に、平静さを取り戻した
暁狼
(
シャオラン
)
はゆっくりとその右手を解放した。 (······俺は、なにがしたいんだ? 何を期待してる? 失ったものの代わりにでもするつもりなのか? こんなやつを? 馬鹿なのか?) 苛立つ感情を抑え込み、一度目を閉じ、ゆっくりと息を吐く。だんだんと戻って来るいつもの虚無を掴むと、冷淡さを装うように冷ややかな笑みを浮かべた。 「俺に触れるな。近づくな。いいか、お前はただの同行者で、この事件が終われば他人だ。それを忘れるな」 突き放す。 少しでも心を許した自分が間抜けだった。 そんなもの、望まない。 いらない。 なにも、要らない。 「わかった。あなたの言う通りにするよ」 そう言って笑った
紅玉
(
ホンユー
)
は、笑っていたがどこか寂しげだった。自分で突き放しておいて、後悔しそうになる。もうずっと忘れていた感情が、目の前の青年といると甦って来る。それが、怖かった。 「僕ね、小さい頃に大好きな兄上が亡くなってしまって。あなたはそのひととは全然似てないんだけど、兄さんって呼ぶのを許してくれて、なんだか嬉しくなっちゃって。そうだよね、普通なら嫌だよね? 昨日今日会ったばかりの人間に馴れ馴れしくされるの、迷惑だったよね、」 少し俯いて、はにかんだような笑みを浮かべる
紅玉
(
ホンユー
)
に、その言葉に、
暁狼
(
シャオラン
)
は指先が微かに震えた。兄が亡くなった。そのひと言で、揺らぐ心に自身の弱さを垣間見る。しかし、やはりだからこそ突き放そうと決める。 「俺の弟はただひとりだけだ。お前は違う」 「うん、わかってる。そっか、兄さんにも弟さんがいるんだね。仲も良さそう。僕の他の兄上たちはちょっと特殊だから、そういうのなくて。唯一、亡くなった兄上だけが優しくしてくれたんだ」 顔は笑っているのに、心は泣いている。そんな
紅玉
(
ホンユー
)
に対して、
暁狼
(
シャオラン
)
は同情心もあった。あったが、だからといって自分が何か言うのも違う気がしたのだ。彼は兄を、自分は弟を亡くした。だが、自分が弟を亡くしたことを、殺されたことを、ここで言う必要もない。 「嫌かもしれないけど、この事件が解決するまでは······一緒にいてもいいかな?」 装った仮面が剥がれるのを堪えながら、
暁狼
(
シャオラン
)
はひと言、勝手にしろと呟く。 どうしてこんなにも後ろめたいと思うのだろう。いつもの自分なら絶対にそんな風には思わないし、簡単に突き放せるはずなのに。 「さっさと行くぞ······」 横を通り抜けるのと同時に
紅玉
(
ホンユー
)
の頭を鷲掴みにし、ぐしゃぐしゃと髪の毛を乱暴に撫でると、
暁狼
(
シャオラン
)
はさっさと店の方へと歩いて行った。ぽかんとした顔で佇む
紅玉
(
ホンユー
)
の口元が、その背を目にしてゆっくりと緩む。 触れるなと言ったのに、触れてくれた。 それがなんだか嬉しくて。 「待ってよ兄さん! 僕があのおばあちゃんに質問してもいい?」 頭に触れられたその一瞬で、心の中のもやもやが晴れた気がした。
紅玉
(
ホンユー
)
は明るい声で弾むように駆け出す。
暁狼
(
シャオラン
)
は少しも待っていてはくれなかったけれど、見失うなんてあり得ない。 (僕はやっぱり、このひとのことをもっと知りたい! もう少しだけ、傍にいてもいいよね?)
紅玉
(
ホンユー
)
はあることを決意する。 走る度に耳元で揺れる紅い玉の付いた耳飾りが、太陽の光に反射してキラキラと不規則に輝く。 この
縁
(
えにし
)
を終わらせたくない。 その時、母の言葉がふと頭に過った。 運命の縁。 きっと、この出会いは――――。
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柚月なぎ
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