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ep4. 同級生が召喚師だった件

 この状況はどうやら夢ではなさそうだ。  カナデがそう気づき始めたのは、服を着替えたあたりだった。  薬を飲んだ後、たくさんのメイドっぽい女性たちがカナデを浴室に連れて行った。風呂に入れられ全身を磨かれて、服を着せられ髪を整えられた。  着替えた服は正装のようで、これから偉い人に会うのだと否応なく理解できた。 「あの、リアナさん。俺はこれから誰に会うのでしょうか? 今って、どういった状況でしょうか?」  控えの間で隣に座るリアナに、恐る恐る問う。 「国王陛下に帰還の御挨拶をするのですわ。少し前に、マイが戻ったの。一緒に謁見しますから、マイラを待ちなさい」  カナデは首を傾げた。  マイラなんてキャラは、ゲームに登場しない。 (ここって乙女ゲの世界なんじゃないのか? 帰還て、俺、帰ってきたってことなの? そんなイベント、ゲームにはなかった気が)  何となく、乙女ゲの主人公ポジションに異世界転移した夢でも見ているのだろうと思っていた。 (夢じゃなさそうな気もするけど、さすがにこれが現実とか、ラノベみたいな錯覚するのだけは恥ずかしいしな)  とはいえ、この状況をどう理解していいかも、わからない。だから、とりあえず夢が続いている、という認識でいることにした。 「なぁ、リア。マイラって、どこから帰ってくるんだ? ていうか、どんな……」  どんな人? と問おうとした時、控えの間の扉が開いた。 「まぁ、記憶が戻ってるなら、私はそれでいいけどさぁ。朝まで添い寝してたら、そりゃ、リアも怒ると思うよ」 「せめてマイだけは、朝まで耐えた俺を労ってくれないか。心が折れそうだよ」 「ははは、ウケる」  セスと談笑しながら部屋に入ってきたのは、同じ吹奏楽部の鈴城舞だ。カナデに「旋律は愛をのせて」という乙女ゲームを押し付けた張本人だ。  カナデは思わず立ち上がった。 「鈴城! お前、鈴城だよな? 何で、お前までここにいるんだよ。てか、俺、今どうなってんの? お前なら、わかるの? 説明してくれんの? この状況!」  がっつりと舞の肩を掴む。  呆然とカナデを見上げていた舞が、ぽつりと聞いた。 「自分の名前と性別を言ってごらん」 「音無奏、男だよ。何だよ、何なんだよ」  全く意味が分からない。  そんなカナデの顔を眺めていた舞が、首を横に振った。 「全然、記憶、戻ってないよ。二人とも、何を見ていたの?」  舞がセスティとリアナを振り返る。 「え?」 「えぇ⁉」  同じようなリアクションで、二人が同じように驚いている。 「記憶って、何?」  とりあえず舞に聞いてみる。 「あのさ、もしかすると多分だけど、自分が乙女ゲの世界に転移した、とか思ってないかにゃ?」  思いっきり言い当てられて、恥ずかしさに顔が熱くなる。  舞が、あからさまに大きく息を吐いた。   「転移したんじゃなくて、戻ってきただけ。カナデは記憶を消されて異世界に飛ばされてたの。探し出してこっちに連れて帰ってきたのが、召喚師である私にゃ」  バン、と胸を張って舞が得意げな顔をする。 「は? 戻って? 俺が、乙女ゲの世界の住人てことなのか?」  舞の言葉が半分も理解できない。 「本当に何も思い出してないんだねぇ。あの乙女ゲは、この世界を模して作った魔道具にゃ。カナデをこっちの世界に戻すための入り口でしかないよ」  舞がカナデの胸に手をあてた。  どくん、と、心臓とは違う鼓動が動いた。 「魔力の核が、目を覚ました。これで少しずつ、魔法が使えるようになるよ。日本には皆無だった魔力が、ムーサ王国では普通に流れているからね」  胸の奥が、熱い。  自分の中にある知らなかった力が解放されたのを感じた。 「鈴城はこっちの世界の住人、なんだな」  高校の同級生は、自分をこの国に戻すための召喚師だった。なんて、本当にラノベみたいだ。だが、納得せざるを得なかった。 「そうだよ。本来なら、こっちでの付き合いの方が長いんだにゃ。早く思い出してよ、カナ」  拳で胸をとん、と突かれる。  舞の顔は、笑っているけど少し悲しげだった。  何も言えないでいるカナデの肩を、舞がポンポンと叩いた。 「まぁ、無理しなくってもいいけどにゃ。こっちの世界のカナデは女の子だったから、私もちょっと違和感あるし。まだ、音無って呼んじゃいそうだにゃ」  慰めてくれているのだとわかるが、とんでもない発言の方に気を取られた。 「え? 俺って、女の子だったの?」  舞が半目になった。無言で後ろを振り返る。  セスティとリアナが咄嗟に舞から目を逸らした。 「本当に何も説明してないんだにゃぁ」  恨みがましい声が二人を責めているのがわかる。 「だって、セスは普通にカナと会話したって言っていたから、問題ないと思いましたのよ」 「気が付かなかったんだ。カナは俺の名前を呼んでいたから。てっきり戻っていると思っていたんだよ」  二人の慌てた釈明を聞いて、舞が肩を落とした。 「運命の番に薬も飲まずに会っちゃったオメガとアルファが、まともに会話できると? カナには記憶がなくても知識は入れとくって、話してあったはずだけど?」  舞のツッコミに、二人は言葉なく黙った。 「えっと、つまり俺はこの世界じゃ女の子だったけけど、日本で男に生まれ変わったってことなのか?」  舞が思いっきり首を振った。 「正確には、この世界でもカナデは男だったの。でも、誰も知らなかった。皆がカナデを女の子のベータだと思っていたんだよ。カナデ自身もね」  舞が真剣な顔でカナデを見上げた。 「まぁ、その辺りは、これから真相がわかるよ。国王陛下への謁見の席には、ティスティーナ家当主も出席する予定だから」 「ティスティーナって、ゲームの主人公の姓、てことは」  舞が頷いた。 「カナデの家。当主はカナデの実の御父上だよ」  舞やセスティやリアナの表情は真剣だ。それに、どこか暗い。  良い話ではないのだろうと、感じ取れた。 「そろそろ時間だ。行こう」  セスティがカナデを促した。 「記憶がないと気が付かなくて、すまない。謁見を終えたら、カナデの質問には何でも答えよう」 「ゆっくりで構いませんわ。カナデのペースで失くした思い出を取り戻しましょう」  反対側に立ったリアナが笑いかけてくれた。 「うん。二人とも、ありがとう」  この二人と舞がいてくれれば、大丈夫だ。何となく、そう思えた。  二人に挟まれて、カナデは謁見の間に向かった。

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