68 / 69

番外【R18】バディの居ぬ間に①

 禍津日神の儀式から数日後。直桜と護には日常が返ってきた。いつもの仕事をいつものようにこなす。今日は、仕事に行く護を直桜は見送っていた。   玄関で、護が直桜に抱き付いた。 「一週間で帰ってきますから。一週間の辛抱です」  足元には大きなキャリーケースが置いてある。  今日から一週間、護には滅多にない出張が入っていた。東北地方で起きた事件の事後観察で、今回はバディの直桜ではなく清人と出掛けることになっている。  まだ直桜がバイトを始める前に清人と関わった仕事らしい。 「一週間分の直桜の匂いを嗅いでおきます」  直桜の肩に顔を押し付けて、何度も息を吸っている。 「一週間くらい、離れることはあっただろ。訓練の時はもっと長かったんだし」  忍と梛木にそれぞれ訓練を受けていた時は、二週間以上離れていた。 「あの時は同じ地下にいたでしょ。今回は距離感が全く違います」  一階の駐車場で清人が待っているにも関わらず、護が動こうとしない。 (あんまり気乗りしない仕事なのかな)  東北地方にも、霊・怨霊担当の部署がある。そこの浄化師とうまくいっていないのかもしれない。浄化師や清祓師の家系の中には、鬼の末裔である護を毛嫌いしている者もいると、以前に清人が話していた。 「帰ってきたら、たまには俺が護を甘やかしてあげるから、頑張ってきなよ」  抱き付く護の頭を撫でる。こんな風に護の方からわかり易く甘えてくるのも珍しい。 「私が居なくても、ご飯はちゃんと食べてくださいね。ゴミは溜めておいてもいいですが、洗濯は一回くらいはしてください。掃除は帰ってきたら私がしますから、そのままでも」  護の唇に人差し指をにゅっと押し付けた。 「飯は作れないけど、それ以外の家事は俺だって、いつもしてるだろ。心配ないからさっさと行く」  いくら直桜でも、そこまで生活力がないわけではない。  護の肩を掴んで、回れ右する。  玄関の扉に手を掛けた。 「作らなくても、ご飯は食べてくださいね。一週間の予定ですが、終われば早く帰ってきますから。それから」  護が直桜の耳に口を寄せた。 「寂しくなったら、私の部屋の、ベッドの上の箱に玩具や小道具が入っていますから、使ってくださいね」  囁く声がやけに甘くて、掛かる吐息に耳が熱を持つ。 「一週間くらい、待てるよ。ほら、早く行きなよ」  ずいと護の体を離す。  残念そうに笑んで、護が玄関を開けた。 「……帰ってきたら、一緒に使おうよ。一人でやっても、詰まらないだろ」 ぽそりと囁く。  直桜の声を聞き逃さなかった護が、クスリと笑った。 「一人でしている直桜を想像すると、興奮しますけどね。それじゃ、いってきます」  直桜の頬に口付けて、今度こそ護は出掛けて行った。 「こういう時ばっかり、雄みが増すんだから、狡いよな」  呟いて、直桜は事務所に戻った。  大学の四年間は一人暮らしでそれなりに家事はしているので、洗濯も掃除も抵抗なく出来る。料理だけは得意ではないので、最近は護が作ってくれていた。  数日分は護が作り置きしてくれていたものを食べていたが、なくなるとレトルトやカップ麺が多くなる。  事務所は結界が張ってあり所在を隠している都合上、デリバリーが使えない。  護が留守にして三日目あたりから、買い物にも行き始めた。 (俺だって簡単なモノなら作れるんだし、護が帰ってくるのに合わせて、何か作って待っていようかな)  ぼんやりそんなことを考えながら、部屋の本棚を漁る。 「料理の本なんか、俺が持ってるわけないよな」  期間限定のつもりで始めたアルバイトは、正式採用が決まった。以前に住んでいたアパートは引き払って、早々に引っ越しは完了していた。広かった直桜の部屋は物が増えて、以前より狭く感じる。 「俺、本当に13課に就職したんだなぁ」  今更ながら実感する。  あんなに嫌だった惟神の力も13課の仕事も、今は得られて良かったと思う。この力があったから護に出会えた。この場所があるから、護と生きられる。  護との出会いは、文字通り直桜の人生をがらりと変えた。 「カレーとかなら、俺でも作れる、はず。多分。料理の本、護の部屋にあったはず」  帰ってきたら護を労おう。  そんな気持ちになって、直桜は護の部屋に向かった。  バスルームとトイレを挟んだ隣に護の部屋がある。  間取りは直桜の部屋と同じだが、綺麗に片付いて無駄なものがない護の部屋は広く感じる。 「護、勝手に入るよ~」  家主がいない時に勝手に入るのは、何となく気が引けるので、一応声に出してみる。後から部屋に入ったと話しても、護は特に怒ったりしないだろうが。 「確か机の本棚に、それっぽい本があったはず」  一緒に寝る時は護の部屋が多いので、自然と入る機会は多い。どこに何があるのか、見える範囲は何となく覚えていた。  机に手を掛ける。  カタリ、と何かが手に引っかかった。  大きな木箱が置いてあった。 「こんなの、前からあったっけ?」  そう考えて、思い出した。 『私の部屋の、ベッドの上の箱に玩具や小道具が入っています』  机は、ベッドの頭側にある。 「もしかして、これかな。いつもどこに隠してんだろ」  開けてみると、色々な玩具や道具が入っている。見慣れたものから知らないものまで、様々だ。 「こんなに揃ってたんだ。知らなかった」  とりあえず、一番上にある手枷を手に取った。 「手枷はいつも使ってるけど、これ、いつものじゃないよな。内側フワフワになってて、痛くなさそう」  レザーの手枷の内側にファー素材のフワフワした布のようなものが付いている。いつも使っている手枷は普通のレザー素材のみだ。  直桜は箱を持ったままベッドに腰掛けた。  ベッドの頭側には、手枷に付いたチェーンを括りつける留め具が固定されている。 「これも何時の間に付けたんだろって感じだったよなぁ」  ある日気が付いたら、すでにあった。  護の誕生日にソフトなSMっぽいプレイをしてから、護の探求心に火が付いた。あれ以来、直桜が好みそうな小道具や玩具が知らない間に増えている。 「嫌いじゃないから、別にいいけどさ」  呟いて、何だか恥ずかしくなった。  自分にM気質があったなんて、知らなかった。これも護と出会って、というか、護に引き出された新たな自分の一面だ。  きっとフワフワの手枷も、プレイ中に体を動かす直桜への配慮なのだろう。時々、手首に痣ができてしまうのを気にしていたのかもしれない。  出来心で、左手に手枷を巻き付ける。 「これって、自分でも付けられるんだ。面白いなぁ」  ベルトの固定は案外、簡易な作りで自分でも両手に付けることができる。フィット感が良くて馴染む。 (次はコレ、使いたいなぁ。他にも何か、新しいのあるのかな)  直桜は箱の中に目を落とした。 「目隠しと、何だろコレ。あ、猿轡的なやつか」  丸い球が真ん中に付いた細いひもを引っ張り出す。 「あるのは知ってたけど、使ったことない気がする」  護は直桜によく言葉責めして返事を請うので、着ける機会がないのかもしれない。 「プレイ中の護って、なんであんなにドSなんだろ。普段は全然、そんなんじゃないのに」  仕事中もプライベートでも、護にSっぽさは微塵も感じない。そこがまた、真正のSのように感じて、ゾクゾクする。  これまた出来心で、猿轡を咥えてみた。頭の後ろで調節し、固定する。 (うわ、全然しゃべれない。これじゃ、護は使わないよな)  喉からなら声は出せそうだが、言葉は無理だ。喘ぎ声くらいなら出そうだが。下手をしたら唾液も呑み込めない。  さっさと外そうと思った直桜の目に、箱の中のある玩具が飛び込んだ。 (何、この変な形の。玩具? あ、あれだ、アナルプラグだ。バイブ付き? 使ったことないような)  護の指だけでいつも中イキしてしまうので、正直なところ直桜には必要ない。使うタイミングもなかったんだろう。 (護……、俺のこと、どうしたいんだろう。これ以上、感度高まったら、俺、死んじゃう)  他の人のことはわからないが、自分的には感度は良い方だと思う。護に何かされるとすぐに達してしまうから、直桜的には道具は必要ないと思っている。 (手枷より護に抑え込まれた方が興奮するし、口だって、護に塞がれた方がずっと……)  あの大きな手で口を塞がれることを想像すると、股間が疼く。首に手を添えられただけで、ゾクゾクする。それを想像したら、勃っていた。 (やば……、ちょっとムラムラしてきた。まだ五日しか経ってないのに)  護が返ってくるまで、あと二日ある。我慢できると啖呵を切った手前、ここで抜くのは避けたい。避けたいのだが。  直桜の目は、アナルプラグに釘付けになっていた。 (どんな刺激なんだろ。指とは、違うのかな。ちょっとだけ、やってみるのは、いいよな)  あくまで好奇心、良かったら、護とプレイする時も使えばいい。などと自分に言い訳をしながら、アナルプラグを手に取る。 (えっと、向きは、こう? ローション……、ちゃんと箱の中に入ってる。さすが、護)  アナルプラグの先にローションを垂らして、後ろの穴にあてる。くいくいと何度が先を出し入れすると、すんなりと根元まで入ってしまった。 (解してないのに。護に今までされたこと思い出しただけで、ちょっと気持ちよくなってる)  プラグを少し動かすと、前立腺の悦い所にあたってビリっと腹に痺れが走った。 「んぁ……」  視界の端に、箱の中身が映った。小さな丸いボタンがみえる。手を伸ばし、そのボタンを押してみる。 「ぁあ!」  バイブの細かな振動がちょうど当たった悦い所を刺激し続ける。 (ナニコレ、何、これ! ヤバイ。こんな刺激、強すぎて、おかしくなる)  今までに感じたことがない強い刺激と指とは違う気持ちのよさで、涙目になる。腰が勝手に動く。震える手で、箱の中のリモコンを探す。 (ダメ、ダメ! このままじゃイっちゃう。勝手にイっちゃう!)  手の震えが酷くてリモコンを握れない。出来心で付けた手枷が動きの邪魔をする。両手を繋ぐ鎖はソコソコ長いが、焦っていると上手く動かせずに変に絡まる。 「あっぁぁっ……っ!」  達しそうになって、咄嗟に下腹部に力を入れた。  その拍子に折れ曲がった足が箱を蹴飛ばした。リモコンが入った箱がベッドの下に落ちた。 (リモコン! 箱から飛びだしてないよな。拾わないと、止められなくなる!)  勢いよく起き上がって、ベッドの下を覗こうとしたら、何かが引っ掛かった。  手枷の中途半端に長い鎖がベッドの頭の上の留め具に引っかかっている。  まるで両手を頭上に拘束された状態になってしまっている。 (嘘……だろ。ちょっと待って。これ、どうやって外せば……)  グイグイと引っ張っても、外れない。どんなふうに絡まっているのか、直桜の視線からでは、良く見えない。  そうしている間にも、アナルバイブは容赦なく直桜の前立腺を刺激し続ける。 「ぁ、ぁっ……ぁぁ!」  猿轡のせいで、言葉が発せない。喘ぎ声だけは、喉から響く。 (ダメ、も、出る、イクっ) 「んっ、んんっ」  体を小さく折って、達する快感に耐える。股間がじんわりと熱くなった。護のベッドの上で、思いっきり射精してしまった。 (出した、のに、まだバイブ、止まらない。どうしよ、また、気持ちいの、クる)  ビクビクと腰が震える。  達した気怠さに被さるように、次の快感の波が腹の中に持ち上がる。 「ぁ、ん、ぁんん」  猿轡の玉の端から、唾液が流れ落ちる。護の枕が直桜の唾液でぐしょぐしょに濡れていく。 「んんん!」  次の波が押し寄せて、また達してしまった。 (こんなすぐ、二回も、出したら、も、無理)  変わらない刺激は止まることなく続いている。腹の奥にまた疼きが堪って、快感が昇ってくる。 (イクの、早くなってる。また、出る。また、護のベッド、汚しちゃうっ)  そう考えた瞬間、直桜の男根の先から精液が吹き出した。 「ぁ……ぁ、ぁぁ……」  意識が虚ろになってくる。  気持ちのよさと快楽だけが、腹の奥と頭の中に溜まっていく。 (ごめ、ん。護……、いっぱい、汚しちゃった……)  ぼんやりと護の顔を思い出す。 (こんな時、護だったら……)  後ろから抱き締めて、直桜を優しく叱ってくれる。 『もう三回も出してしまったんですか。シーツも枕もこんなに汚して。お仕置きしないといけませんね』  護の手が直桜の目にかかって視界を塞ぐ。 『どうせなら目隠しもしましょうか。見えないと余計に感度が良くなって、また達してしまうかもしれませんね。出したら、お仕置きですよ』  直桜はゆっくりと目を瞑った。 (出したら、お仕置きされちゃう。出しちゃ、ダメ、出しちゃ……)  ビクンビクンと腰が揺れて、快楽が脳に突き抜けた。  達した感覚はあるのに、射精していない。 (メスイキ、しちゃった。出さなかった。汚さなかった。良かった。護、褒めてくれるかな)  護の手が直桜の男根を優しく包んで、容赦なく扱く。 『ちゃんとメスイキ出来て偉いですね。今度は出してもいいですよ。頑張ったご褒美に、ね。私が合図したら、イってくださいね。それまで、我慢ですよ』  バイブの刺激に加えて、護の手で前を扱かれたら、我慢なんかできない。 (でも、合図まで、我慢、我慢しないと……)  頑張って耐えれば、その分、護が褒めて沢山気持ちよくしてくれる。  腰を揺らしながら、バイブの刺激でイかないように腹に力を籠める。 (いつもなら、耳元で優しく命令してくれる)  耳の形に添って舌を這わせながら、吐息を吹きかけて敏感になった耳を噛んで舐める。  想像しただけで、達しそうになる。  十分に焦らして、直桜が限界だと感じた時に、 『イケ』  甘くて低い声の命令が、直桜の体を支配する。 「ぁぁ! ぁ、はぁっ」  もう五回目なのに、精液が飛び散った。 (俺、このまま、何回イクの……。ヤバイ、頭、おかしくなってきた……)  バイブは一向に止まる気配がない。  腕の鎖も全く外れてくれない。  拷問のような快楽に飲まれて、直桜は意識を飛ばした。 【補足情報】  まぁまぁSMな関係性の護と直桜ですがDomSub要素もある気がしている今日この頃。元々の関係性が主従(直桜は護と対等な関係を望んでいるけど設定上は)なので、がっつりというよりはソフトに。エッチの時だけですが。  ちなみに「妄想力高めで感度が良い」というのが直桜の設定です。可愛い。中途半端に腐男子だから中途半端に知識もあって、妄想力を後押しするんだろう、多分。 『第52話 結び』で護が使った玩具が、今回、直桜がやられた(笑)アナルバイブなんですが、本人は気付いていません。52話で護が玩具を使ったこと自体わかっていないので(笑)。気持ち良かったんだねぇ、きっと。

ともだちにシェアしよう!