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第6話★

 ホテルに入るのなんて久しぶりだな、と駿太郎は思う。ラブホテルなんてみな同じなので、特に珍しさも感動もないけれど、妙に落ち着かなくなるのはこれからする行為のせいなのか。 (元彼とぎくしゃくしてから、してないからな)  行為自体久しぶりというのもあるだろう。貴重品を置いてコートを脱いでいると、友嗣が早速抱きついてきた。 「……おい、シャワーくらい浴びさせろ」 「えーめんどくさい」 「めんどくさい、じゃねぇ。……一緒に入るか?」 「うん、そうする」  二人で仲良く服を脱ぎ、浴室に入ってシャワーを浴びる。色気もムードもまったくない雰囲気に、駿太郎は拍子抜けした。  あれだけ誰とでも寝る友嗣だから、シャワー中に手を出してくるかと思いきや、中を洗うから先に出ろ、と言うと、大人しく出ていったのだ。  さっきはすぐに抱きついてきたくせに、と思いながら遅れて浴室を出ると、水が点々とベッドまで落ちている。それを追うと、ベタベタのまま裸でベッドに寝そべる友嗣がいた。 「友嗣! 身体を拭け!」 「あ、シュン早かったねー」  早かったねーじゃない、と駿太郎は急いでバスローブを着て、タオルを持って行き友嗣の身体を拭く。なんかデジャブだな、と思いながら拭き終わると、あのなあ、と友嗣を諭す。 「あまり汚すと出禁になるし、寒くないのかよ?」 「ん? あ、そっかー」  いくら空調が効いているとはいえ、濡れたままでは寒いだろう。そんなことすらわらかないのかと呆れるが、友嗣はなぜか嬉しそうに笑っている。そして両手を広げて「シュンがあっためてよ」と言うのだ。こういう甘え方も、今までに寝た相手にしていたのだろうか。  仕方がない、と駿太郎は彼の唇に軽くキスをし、タオルで濡れた彼の顔周りの髪を拭きながらベッドに乗る。 「ムードもへったくれもないな……」 「ん? シュンはそういうのが好きなの?」  そう聞かれて、思わず友嗣の顔を見た。そしてドキリとする。 (やっぱり……あの顔だ)  笑っているけれど、何を考えているかわからない顔。ちゃんと見ようとしなければ、笑っていると勘違いしてしまうような表情だ。 (どう言うのが正解なんだ?)  こんな、裸で身体の半分肌が合わさっている状態なのに、自分たちの関係はあくまで仮の恋人だ。ムードを出してもなぁ、と思うし、かと言って、ぶつかり稽古のようなのも違う気がする。  駿太郎は迷ったあげく、聞き返してみることにした。 「お前は? どういうのが好き?」  そう言うと、目の前の綺麗な顔は驚いたように目を見開く。そして一瞬――本当に、近くで見ていないとわからないくらい少しの間、戸惑ったように目を泳がせた。  けれどすぐにその目は細められる。 「シュンの好きなように」 「……」  今のはなんだったのだろう? そう思っていると、頭を引き寄せられ唇が重なった。軽くリップ音がしたあと深く口付けられ、ゾクリとする。  友嗣が、くすりと笑った。 「シュン、キス上手いね……」  そしてまた、唇が重なる。 (こんなの……)  試しに一回やるだけなのに、キスは意味があるのか、なんて思った。けれど友嗣の温かい唇と舌に、次第に思考が霞んでいく。上顎を舌で撫でられ、そのまま上唇も舐められた。ひく、と肩を震わせると、後頭部にあった友嗣の手が、宥めるようにうなじをくすぐる。 (やば……久しぶりだからか……)  自分でもずいぶん反応が良いと思った。しかも友嗣は自分で言うだけあって、キスだけでも上手いと感じる。 (……い、いや、本番やったら萎えることだってあるだろうし)  駿太郎は顔を上げると、互いの唇を繋いだ糸が、すうっと細くなって切れた。下にいる男は微笑んでいて、駿太郎はそれが先程見た、感情がわからない笑みなのか、すでに判断がつけられなくなっている。  スッと友嗣の右手が駿太郎の頬を撫でた。少し冷たいその手に駿太郎は身体を震わせ、息を詰める。その手はそのまま指先で肌を辿り、鎖骨を撫でて胸まで下りてきた。 「……っ」  その指が胸の先端に触れて、駿太郎は危うく声を上げそうになり唇を噛む。やられっぱなしも悔しいので、再び身体を伏せて友嗣の首筋にキスをすると、彼はクスクスと笑った。 「なんだぁ。シュン、ここ弱い?」  しかし駿太郎の反応で心得たのか、友嗣は両手でそこを指で弾いてくる。ビクン、と腰が跳ね、彼の胸に手を付いて耐えていると、ふわっと意識が遠いた。慌てて手を突っ張り、胸を弄っていた友嗣の手を取る。 「……ふふ、シュンは感じると無言になるんだねぇ」  かわいい、と言われて、ゾクゾクと腰が震えた。起き上がった友嗣に両頬を手で包まれて、恥ずかしくて視線を逸らす。 「普段の強気なシュンとのギャップ、すごいなぁ」  顔、熱いねと言われてその両手から逃げた。しかしその時に見えた友嗣のモノが、なんの反応も示していなかったことにムカついてしまう。思わずそこに手を伸ばして触れると、友嗣はクスクスと笑った。顔を見ていなくても今はわかる。奴はやっぱり感情を読ませない顔で笑っていると。 「勃たせてくれるの? だったら舐めてよ」  そう言って再び横になった友嗣は、駿太郎の腰を、彼の顔のほうにくるよう誘導する。駿太郎は、まだ柔らかい友嗣の股間のモノを、ひと撫でしてから咥えた。

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