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黒薔薇の章 弐節
永遠なんて在る訳が無いのに、太宰との間に丈は其れが在る様な氣が為て居た。
自分に采って掛替えの無い存在であるからこそ、どんな無茶だって受け容れて來たし、叶えて來た。悪魔の様に忌々しい計算高さは何時でも癪だったが、残念な程其の戦略に從って失敗為た事は今迄一度も無い。太宰が満足そうな顔をして居るのを視るのは嫌いでは無かった。
太宰の願いを叶えられるのは自分丈で在ると云う自負は有ったし、願いを叶える程太宰が望む要求は大きく為って行ったが、太宰が自分丈を頼って來る事で自分の心も満たされた。
唯愛しくて、自分が満足する為に何度も太宰に愛の言葉を囁いた。十回に一度でも太宰から似た様な言葉が返ったら僥倖だった。
太宰は奇麗で――悪魔みたいな頭脳を持って居る癖に、時折見せる眼差しが迚も優しい。
閨で結婚しようと告げた時の想いは冗談では無い。勿論今で在っても其の気持ちに翳りが射した事は一度も無い。
腹が立つ程奇麗な顔で、何時迄も余裕綽綽を振り撒いて、そして僅か少し丈で善い、俺依り後に死んで呉れれば其れで善い。
多分俺はもう、太宰を喪う事に二度と堪え切れないと思って居る。
二度と何処にも行かないで慾しい。俺が知らない処で何処かの知らない女と勝手に死なれて為るものか。
だから、だから、だから――。
此処でも無い、組織の誰も知らない様な僻地に拵えた俺丈が知る秘密の場所に、彼奴を閉じ込める事が出來たのならば、俺はどれ程安堵出来ただろうか。
其の視線を向ける先には俺だけが居れば善い。阿呆みたいな戯言には何時だって俺が附き合って遣る。
其れが俺の利己で、彼奴が俺の与えた世界の中丈じゃ満足為ない事は考えなくても解る事だった。
俺丈が太宰を好きで、太宰に俺丈を觀て慾しくて、他に何も要らない位俺には太宰が必要なのに――彼奴にとっては、然うじゃなくて。
彼奴を倖せに為て遣れるのは、俺の此の手で在って欲しかったのに。
触れる事が怖く為った。俺の手で彼奴を壊して了いそうで。壊れた彼奴とずっと過ごして行く生活に為っても構わ無かった。同じ丈、俺の事を想って慾しい、願いは其れ丈だった。
太宰治と謂う男は他者の事なんて一切氣にして居ない様に視えて、其の実聢りと僅かな感情の機微すら見過ごさない。俺の中の小さな感情の変化をあっという間に見抜いて――其れからだ、何方も何も口に出さない儘、俺達の距離が広がって行ったのは。
限界だったのだろう、自分でも然う思う。
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