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第2話

 運命の(つがい)とは、特定のαとΩが出会った時に起きる現象だ。  αもΩも常にフェロモンというものを発している。一般的にαはΩの、Ωはαのフェロモンを嗅ぐと「発情」してしまう。αもΩも全人口の1%とはいうもののこれって結構大きい数字で(だって100人に1人はいるってことだし)、だからフェロモンをそのままにしているとこの世は大変なことになってしまう。  しかもαとΩが発情セックスしてΩの(うなじ)をαが噛むとお互いのフェロモンしか感じない「番」になる。そしたらαもΩも一生その相手に縛られることになる。たまったものじゃない。そんなわけで昔からフェロモンを感じないようにする薬はあった。フェロモンが出ないようにする薬もちょっと前に作られた。だからいきなり路上で発情してセックスして番になるなんて大惨事、今の世の中ではそうそう起こらない。100年くらい昔はたまーにあったみたいだけど。  なんの話をしていたっけ?そう、運命の番だ。運命の番同士はそういう薬を全部無視して発情が起こる。しかも普通の番だって本来は一生消えない関係のはずなのに、運命の番に出会うとそれが解消される。  逆に言えば、運命の番は誰にも消すことの出来ない強固な絆だ。それを偽装してしまえば、こっちのものだ。  運命の番はすごく強い繋がりだけど、その相手に出会うことなんて滅多にない。この世の大多数を占めるβには都市伝説って言われてるくらいだ。僕らαやΩにもその存在に懐疑的な人がいるくらいで…ってまた脱線しかけた。  つまり、僕が誰かαを捕まえて「この人が僕の運命の番です」って言っても、余程のことがなければ、それこそ本当に運命の番に会いでもしなけりゃ誰にもバレやしない。どうにかして運命の番を偽装して番になってしまえば、相手は罪悪感を抱くはずだ。今でも非力で発情期(ヒート)のあるΩは社会的弱者とみなされている。運命に巻き込まれた僕を哀れに思って、何でも言う事を聞いてくれるに違いない!  しかしそんなにうまい話はない。この計画を実行するためにはいくつかの乗り越えるべきハードルが存在する。  まず、相手に本気で自分が運命の番だと思い込まさなければいけない。そのためにはこっちが発情した上で相手のフェロモン感知抑制剤を貫通するほどのフェロモンを会った瞬間にぶつけなきゃいけない。それでいて、他の人間は発情させちゃいけない。  実は一応見込みはある。 実は一応見込みはある。希少性混在者にはたまに特殊な体質の者がいるんだけど僕もその1人で、僕はΩにしては珍しくフェロモンの向きを自在に操ることが出来るのだ。どうやってって…Domがグレアでやるみたいに…うーん説明するのは難しいや。‪‪α‬なら割と簡単にできるらしいんだけどね、これ。  今のところ役立ったのは突然発情しそうになったんでフェロモンを自分の周りに留めて抑制剤飲んで発情事故を回避した時くらいかな。ついでに発情誘発剤を飲み物に混ぜたαはお縄になった。めでたしめでたし。  そのなんだかよくわからない能力を使う時が来たわけだ。でももう1つ問題がある。僕はフェロモンの向きをコントロールできるだけで強さはどうにもできない。だからものすごく強いフェロモンが出るのは発情期くらい。α用の抑制剤は当然並のΩの発情くらいではびくともしないので、そのくらいの強さのフェロモンをさらにひとまとめにしてぶつけないととても貫通することなんてできない。でも僕は残念ながら発情期が定期的にくるタイプなので、発情期に行動を起こしたらすぐバレるだろう。いきなり発情しても事故で済むけど、故意にαを発情(ラット)させるために発情期を使うのは犯罪だ。  じゃあ発情期以外にどうにかして強いフェロモンを出さなきゃいけない。手っ取り早いのはさっきちらっと出た発情誘発剤だね!でもこれ、持ってるだけで犯罪なんだよ。あれ、これも言ったっけ?  でも!これしかないと思うんだよね!そろそろ欲求不満がものすごいし!!ドロップする前に僕好みのαを捕まえるにはこのやり方を使うしかないと思うんだよ!!!  で、最後の問題だ。僕が誰を拾うべきか、なんだよね。  でもこれはもう決まっていた。もちろん、その河原って奴にするに決まってる!河原には前科があるから、バレそうになってもどうにか揉み消して逆に全部引っ被せればいい。その力が僕にはある。あっ、僕がクズだと思った?大丈夫、まだ実際にはしたことがないんだ。僕を蹴落とそうとしたαの罪を1から10にしたことはあるけど、全部事実だったし仕方ない。そうでもする覚悟がなきゃここまで登り詰めてないよね。もちろんされる覚悟もだけどさ。  …それに、本当は僕は河原に一目惚れしていた。αSubを飼いたいとは漠然と思っていたけど、はっきりとこのSubが欲しい!って、僕はその時初めて思ったんだ。このαSubを手に入れるためなら罪を犯してもいい、と思えるくらいには。

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