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第6話
覚束ない手付きでなんとか鞄から鍵を取り出して鍵穴に差し込む。焦りと興奮で手には汗が滲んでいて、互いの浅い呼吸がやけにうるさく聞こえる。
玄関を開けると二人して雪崩れ込むようにして押し入り、急いたように靴を乱雑に脱ぎ捨て鞄が玄関に転がった。部屋に行き着くまでも短いキスを何度も繰り返して貪り合った。
「ぁ、ちょ、と…まっ」
言葉だけの抵抗でお互いが本気で止まる様子は微塵もない。やっとの事で部屋に入ると、鷹村は後ろ手に鍵を閉め俺の体をベッドに押し倒した。勿論痛くはないが、普段の鷹村からは想像できない少々雑な扱いに俺も正気であれば文句の一つ二つ言ったはずだが、当然そんな余裕はない。
「すみません、余裕なくて…っ、優しくできそうにない」
上着を脱ぐとうざったそうにネクタイを緩め引き抜いた鷹村は、俺のシャツにも手をかけながら首筋に唇を這わせた。あっという間に脱がされた衣服は床に落ち、晒された鎖骨から胸へと鷹村の唇が移動していく。
「いい、鷹村の好きに、…っん……あぁ…ッ!」
優しくキスをされたかと思えば時折キツく吸われ、赤い鬱血痕が残っていく。生理現象で既に主張していた胸の先端を舐められズクンと下腹部に熱が溜まるのを感じた。広げた舌で押し潰すように嬲られ、吸われながら硬くした舌先でそこを弾くように転がされる。
「あッ、…ゃだ、そこ…ん、……ひぅ…ッ」
もう片方は指の腹で優しく捏ねるように刺激され意図せず声が漏れてしまう。
下の方でカチャカチャと音がして視線を下ろすと、ベルトが外され腰を持ち上げられるとあっさり下着ごと引き抜かれてしまった。生まれたままの姿にされた俺は反射的に足を閉じ、やや硬度を持ち始めているそこを隠すように擦り合わせた。
「…桐江さん…」
大きな手が触れ、唇が触れる。羞恥心からくる必死の抵抗であったが、全身の力は抜けておりもはや何の意味もない。ゆっくりとそこを開かれると膝の頭から内腿、足の付け根へと唇が落ちていき、すっかり硬くなってしまったそこが期待にふるりと揺れた。
「ひ…ッ、鷹村、そこは…ぁっ!」
既に先走りが伝っていた陰茎を咥えられる。熱い舌で裏筋を舐め鈴口を重点的に刺激されると、あまりの強過ぎる刺激に仰け反った。陰茎への愛撫はそこそこに、口内から解放されると外気に触れて少しひやりとした。
鷹村の顔が少し下に動いて、不思議に思った俺が顔を上げると躊躇う事なく直ぐ下の窄まりを舐めた。
「な…っ!やだ、そんなとこ汚い…!」
「桐江さんのここ、薄いピンク色で綺麗です」
自分でも見えない部分を鷹村に余す事なく見られていると思うと、羞恥でカッと顔が熱くなる。
当然何も受け入れた事のないそこは硬く閉じたままで、鷹村の舌が皺を伸ばすように周囲を愛撫し、少し緩んだタイミングで舌先が侵入してくる。思わず体が強張ったが、鷹村の手に落ち着かせるように内腿を撫でられ、ゆっくりと力が抜けていく。
初めての経験ではあるが知識として男同士の性行為ではここを使うという事は知っていたが、この家には潤滑剤なんてものはなく準備が不十分だった。
「うぁっ……はッ……あ…っんぅ」
痛みはないが異物感が凄く、性感とは程遠い感覚だ。舌先でこれなら鷹村の陰茎を受け入れらるか正直不安だった。
「痛くないですか…?」
「…ん、だいじょうぶ…」
心配そうに俺を見上げる鷹村に小さく頷けば、安心したように愛撫を再開する。優しくできそうにないなんて言いながら随分慎重だ。きっと鷹村も男相手は初めてなのだろう。
唾液で十分に濡れたそこに指が触れる。周囲を撫でられる感覚がむず痒くて腰を揺らすと鷹村の熱い時が聞こえてくる。
「…それ、誘われてるみたいで興奮します」
「っ!!」
ぬかるんだそこに鷹村の指が入る。舌よりも硬いが細い指はゆっくりと奥へと進んでいき、内壁を辿ってどこかを探しているような動きだった。
「力、抜いて下さい。…確かここら辺に……」
「ん…?はっ、あ…うぅ……――あ゛ッ!?」
胎内を弄られる感覚は何とも言えなくて意識を逸らそうとしていた時だった。ビリ、と電流が走ったみたいに体が甘く痺れる。鷹村のキスや胸を愛撫された時と似ているが少し違う。例えようのない鋭い性感に、ベッドのシーツを皺になるくらい強く掴んだ。
第二関節まで入れた辺りで指がお腹側へ押し上がる。しこりのようなそこは前立腺で、ここを上手く刺激すると射精よりも強い快楽を得られるようになるらしい。
「ひッ…や、っ何そこ…っ」
「ここか……桐江さんが気持ち良くなれる場所です。覚えて」
トントンと優しく断続的に刺激されると、堪らず仰け反って喘いだ。
慣れない刺激に悶えていると、同時に先走りを垂らして震えていた陰茎を口に含まれ緩く上下に扱かれる。激しさはなく緩い愛撫なのに、襲ってくる快楽は強くて逃げ場がない。
「うぅ、〜〜ぁ゛ッ!」
嬌声も声にならず、目の前に光が飛んだようにチカチカして絶頂を迎えた。
「〜〜ッ、あ゛…っ、……ッ」
生理的な涙が滲んで、はくはくと浅い呼吸を繰り返す。絶頂の余韻は長く、全身を甘い快楽が駆け抜けていく。
陰茎から口を離した鷹村は上体を起こすと俺の頭を撫で、汗で張り付いた前髪を掻き上げ、指の甲で涙を拭った。頬に触れる指でさえ快感を拾ってしまい小さく震えてしまう。
「…桐江さん、手…借りても良いですか?」
「……?うん」
少しずつ落ち着きを取り戻していく意識の中、少し辛そうな表情をした鷹村が問う。何をするのか分からなかったが、頷くと手を掴まれ下へ導かれる。
「…俺の、握ってくれますか?」
下着越しに硬いものに触れる。そこはもう痛そうなくらい張り詰めていて、形がはっきりわかってしまうくらいだった。俺のより一回り程大きくて太い。最初は少し躊躇ったが、鷹村がしてくれた事に比べればこれくらい大した事はないだろう。
そっと下着のゴムを引っ張ると腹に付きそうなくらい反り立った陰茎が勢い良く顔を出した。人の陰茎を触るのは初めてだったが、それを両手で包んでゆっくりと上下に動かしてみる。鷹村の表情を見ながら裏筋や先端の方を強めに刺激してみると切羽詰まったような声が頭上から聞こえてくる。鷹村の頬は上気していて、汗が伝っている。
普段は聞かない色っぽい息遣いにドキリとしながら、見様見真似でそこに舌を伸ばしてみる。
「っ、桐江さん!そこまでしなくても良いですから…!」
「…んっ、…何でだ?お前もしてくれただろ?」
少ししょっぱくて苦いが、決して嫌悪感はなく寧ろ鷹村の気持ちいい事ならもっとしたいと思った。あ、と口を開けてそれを口に含む。頑張って半分しか入らなかったが、足りない所は手で愛撫しながら吸ったり舐めたりと繰り返してみる。中々上手くできなかったが、鷹村の表情を見るにやり方は間違っていないようだ。
「んむ、…っは……ちゅ、」
暫くそうしていると顎が疲れてしまい口を離すと唇で全体をキスするように愛撫しながら手で扱く。
「はぁっ……桐江さん、もう出ます」
「ん、良いよ」
びゅく、と先端から勢いよく溢れた白濁は俺の顔を盛大に汚した。
「あ……」
どろりとしたそれが頬を伝う。特有の青臭さが鼻に抜けるが、鷹村のだと思うと不思議と不快感はない。幸い目には掛からなかったが、唇に付いた分を少し舐めてみる。
「う…にが…」
「っ、す、すみません!すぐ拭きますから…!」
「ん、大丈夫」
鷹村は慌てた様子でベッド脇に置いてあったティッシュを手に取ると俺の顔に付いた精液を拭った。
彼は何だか先ほどまでと様子が違って戸惑ったように視線を泳がせている。何かまずい事をしてしまっただろうかと思ったが、どちらかと言うと恥ずかしそうにしている鷹村を見て思わず頬が緩んだ。
お互い一度出した事によって頭がスッキリしたのか、何だか妙に気まずくて暫く沈黙が訪れていたが、俺は思い立ったよう立ち上がった。
「俺、風呂入ってくるよ。鷹村も入ってくだろ?」
「は、はい。桐江さんが良ければ」
「良いに決まってるだろ。じゃあ先に行ってくる」
俺は換気の意味で部屋の窓を開けてからそそくさと風呂場へと向かった。
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